預金の名義、家族で話しておきたいこと
通帳の名義や口座の場所は、いざという時に家族が困るところでもあります。元気なうちに伝えておく安心と、伝え方のちょうどよい間合いのお話です。
公開日: 2026年11月12日
通帳のしまい場所、銀行口座の名義、暗証番号やキャッシュカードの控え――こうした「お金にまつわること」は、ふだんから話題にするのが、なんとなくはばかられる、というご家庭は多いのではないでしょうか。「縁起でもない」「まだまだ元気だから先のこと」と、つい話を先に延ばしてしまいがちです。けれども、いざという時――急なご入院、思いがけない出来事――に、ご家族がいちばん困るのも、じつはこの「お金まわりの情報」なのです。きょうは、預金や口座の名義について、ご家族とちょうどよい間合いで話しておくお話をいたします。すべてを一度に伝える必要はありません。少しずつ、お元気なうちに、お茶を飲みながらお話しする――そんなゆるやかな備えのかたちをご紹介します。財産の話というよりも、ご家族への思いやりのひとつとして、肩の力を抜いて読み進めていただけたらと思います。
いざという時、家族が困るのはどんな場面
ご本人が急な体調の崩れで入院されたり、思わぬ出来事で意思を伝えにくくなったりした時、ご家族が最初に直面するのが「お金まわりの確認」です。入院費の支払い、毎月の引き落としの確認、生活費の手立て――これらを進めるためには、どの銀行のどの口座を使えばいいのか、通帳がどこにあるのか、暗証番号は何かといった情報が、どうしても必要になってまいります。ご家族にとっては、初めて知る情報も多く、看病でいっぱいいっぱいのところに、銀行や役所の手続きが重なって、たいへんな負担になってしまうのです。
けれど、ご本人にしかわからない情報は、想像以上に多いものです。たとえば「三十年前に作った郵便局の貯金」「結婚前から続けている地方銀行の口座」「数年前にネットで開いた銀行の口座」――こうした、長年のあいだに少しずつ増えた口座の存在は、配偶者やお子さんでもご存じないことが、よくあります。いざという時にご家族があちこちの銀行を訪ねまわるのは、心身ともに大きな負担になります。手続きには戸籍謄本や除籍謄本など、いくつもの書類が必要になることも多く、そのたびに各銀行の窓口で何時間も待たされる――そんな経験を、ご家族にさせないための準備でもあるのです。
また、ご本人が亡くなられた場合は、銀行の口座は原則として一度凍結されます。お葬式の費用や、お住まいの家賃の支払いといった、すぐに必要なお金が引き出せなくなるのです。生前に「もしもの時にはここから」と取り決めをしておくこと、あるいは家族信託や預貯金仮払いといった制度を知っておくことは、ご家族の負担を大きくやわらげてくれます。
「凍結されたお金がいくらあるか、わからない」というケースもよくあります。長く付き合いのなかった銀行や、若い頃に作ったまま忘れていた郵便貯金など、ご本人もうろ覚えのまま時間が経ってしまうことが少なくありません。ご家族が後から調べるのは大変な手間ですから、いま一度、お持ちの口座をすべて書き出してみる「棚卸し」の時間を、ご自分のためにも、ご家族のためにも、一度持っていただきたいのです。
伝えておきたい三つのこと
では、ご家族にどんなことを伝えておけばよいのでしょう。すべてを細かく書き出す必要はありませんが、せめて以下のような大筋を、ひと枚の紙にまとめておくと、いざという時に大きな助けになります。むずかしい用語は要りません。ご自分の言葉で、ふだんお話するように書いておけば十分です。
- お持ちの銀行口座のリスト――銀行名・支店名・口座種別だけでよい
- 通帳と印鑑のしまい場所――「桐ダンスの上の段」など、具体的に
- 毎月の引き落としの一覧――電気・ガス・通信・保険など
- 持ち家やマンションがある場合、その権利証のしまい場所
- 保険証券のしまい場所と、保険会社の連絡先
- 暗証番号は紙には書かない。覚えやすい合言葉で家族に口頭で
まずいちばん大切なのは、「銀行口座のリスト」です。これは、ノートに一行ずつでよいので、「○○銀行○○支店、普通預金」「××信用金庫××支店、定期預金」というように、ご自分が今お持ちのものをすべて書き出してみる作業です。意外と「あれ、ここの口座を作っていたのを忘れていた」と、ご自分でも驚かれることがあります。
暗証番号や印鑑の場所は、紙に直接書くと盗難の時に危険ですから、口頭でご家族にお伝えするのがおすすめです。「もしもの時には、お母さんの嫁入り道具の引き出しを開けてね」「印鑑は仏壇の引き出しの一番奥にあるよ」――そんな具体的な目印を、お茶の席で何気なく口にしておくだけでも、ご家族の心づもりはぐっと違ってまいります。
ちょうどよい間合いで、ゆっくり話す
「縁起でもない話」と思われるかもしれませんが、ご家族との「お金の話」は、できれば一度に重く話すよりも、何度かに分けてゆるく話していくのが、お互いに楽です。ある日、お茶を飲みながら「最近ね、通帳をすこし整理したのよ」「使っていない口座を一つ解約したわ」――そんなさりげない切り出し方が、自然な会話につながっていきます。
ご夫婦のあいだなら、お互いの口座を「これとこれは私のもの」「これは二人で使っているもの」と、整理する機会にもなります。お子さんやお孫さんとの会話のなかでは、「もしもの時には、この引き出しのなかに入っているノートを見てね」――それだけで、十分に「申し送り」になっていきます。エンディングノートをきちんと書くのが大変なら、まずは家計用のノートのいちばん後ろのページに、銀行口座の名前だけを並べておくだけでも、立派な備えです。
また、最近では「家族信託」や「任意後見契約」といった、お元気なうちに財産管理の取り決めをしておく制度も整ってきています。お住まいの市区町村の福祉窓口や、信頼できる司法書士・行政書士の先生にご相談されると、ご自分の状況に合った形を考えてくださいます。「専門家に相談する」と聞くと身構えてしまいますが、最初の三十分の無料相談を活用するだけでも、ずいぶん視界がひらけるものです。
ご家族との「お金の話」は、一度きりで終わらせる必要はありません。状況は年を追うごとに変わっていきますから、年に一度、お正月や誕生日のあとなど、節目の時期に「今年の通帳の状況」を見直して、家族と共有する習慣にしてみてはいかがでしょうか。新しい口座を開いた、古い定期預金が満期になった、退職金の振り込みが済んだ――そうした変化を、ノートの該当ページに書き足していくだけでも、立派な「家族への申し送り」になります。
お元気なうちにゆっくりと伝えておくこと――それは、ご家族への、何よりの思いやりです。「私のあとの始末で、子どもたちに迷惑をかけたくない」――その願いを、お元気な日々のなかで、少しずつ叶えていく。決して暗い話ではなく、家族と「これからの暮らしを安心して続ける」ための、温かな話し合いの時間として、お茶のひとときに自然に取り入れていけたらと思います。
また、こうしたまとめを書きとめておくノートは、できれば家族にしかわからない場所にしまっておくのが安心です。たとえば、仏壇のなかや、桐ダンスのいちばん下の引き出しなど、ご家族の誰もが「もしもの時には開ける場所」と認識している場所がよいでしょう。表紙に「もしものとき」「ご家族へ」と分かりやすく書いておけば、いざという時、ご家族がぱっと目に留めてくれます。専門家のサポートを上手に活用しながら、ご家庭にぴったりのかたちを、ゆっくり整えていってくださいね。