生前贈与、無理のない手渡しのかたち
元気なうちに、感謝の気持ちを少しずつ手渡したい。そんな思いを形にする生前贈与の考え方を、一般的な範囲でご紹介します。詳しくは税理士さんに相談されると安心です。
公開日: 2026年11月2日
お子さんやお孫さんに、お元気なうちから、感謝の気持ちを少しずつ手渡したい――そう願う方は、けっして少なくありません。亡くなってからまとめて相続するのではなく、生きているあいだに、目の前で手渡したい。お孫さんの結婚や、家の購入、お子さんの教育費の助けに――そんな思いを、自然なかたちで形にする方法のひとつが「生前贈与」です。きょうは、税金や手続きのむずかしい話には深入りせず、「生前贈与とは何か」「無理のない手渡しの考え方」を、やさしくお話ししてまいります。具体的な計算や手続きについては、最終的には税理士さんや銀行の窓口で相談されると安心ですので、本日はあくまで「入り口」のお話としてお読みいただければと思います。
生前贈与って、どんなこと?
生前贈与とは、その名のとおり、お元気なうちに、ご自分の財産をご家族(お子さんやお孫さん、配偶者など)に贈ることをいいます。亡くなってから引き継がれる相続とは違って、ご自分の意思で、誰に、いくら、どんなふうに渡すかを決められるのが、いちばんの特長です。
「贈り物」というと、お誕生日や結婚祝いに包んで渡すお祝い金のことを思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。実は、それも法的にはひとつの「贈与」です。ただ、相続税の世界では、贈与の額が一定を超えると「贈与税」がかかってくる仕組みになっています。とはいえ、年に百十万円までは贈与税がかからない、という「基礎控除」が設けられていますので、ふつうのご家庭のやりとりの範囲では、税金の心配はあまり要らないものなのです。
なぜ、わざわざ生前贈与をするのかというと、二つの大きな理由があります。ひとつは、お元気なうちに、目の前でお子さんやお孫さんの喜ぶ顔を見ながら渡せること。亡くなってから渡す相続では味わえない、生きているあいだの嬉しさがあります。もうひとつは、しっかり計画的に行えば、相続税の負担を軽くできるという、税金の面でのメリット。詳しい計算は専門家にお任せするとして、まずは「贈与って、こういうことなのね」という入り口を知っていただければ十分です。
年に百十万円の非課税枠を、上手に使う
生前贈与でいちばん基本的な考え方が、「年間百十万円までの基礎控除」を活用することです。一人の相手に対して、一年(一月から十二月まで)のあいだに贈った金額が百十万円までであれば、原則として贈与税はかかりません。
たとえば、お子さんが二人いらっしゃる場合、それぞれに百十万円ずつ、合わせて二百二十万円までは非課税で渡せます。お孫さんが三人いれば、お孫さん一人ひとりに百十万円ずつ、合わせて三百三十万円までは贈与税がかかりません。これを毎年続けていくことで、何年もかけて、まとまった財産を少しずつご家族に手渡していくことができるのです。
- 贈与は「もらった側」がいくらもらったかで判定される
- 一年(暦年)単位で計算される――一月一日から十二月三十一日まで
- 贈った相手ごとに百十万円までが非課税
- 百十万円を超えた分には、超えた金額に応じて贈与税がかかる
- 贈与を行った記録(振込明細など)を残しておくと安心
「もらった側が百十万円まで」というところがポイントです。たとえば、お子さんがお父さんから百万円、お母さんから百万円、合わせて二百万円もらった場合、合計が百十万円を超えていますから、超えた分の九十万円に対して贈与税の対象になります。お父さんとお母さん、別々に渡しているからといって、それぞれで百十万円ずつとはみなされないのです。むずかしくなってきましたら、一度税理士さんや、お住まいの近くの税務署相談窓口でお尋ねになるのが安心です。
お孫さん・お子さんへの「気持ちのいい渡し方」
生前贈与で大切なのは、お金そのものより、その「気持ちの伝え方」だと、私たちは思います。たとえお金が動いていても、それがどんな気持ちで贈られたかが伝わらないと、受け取った側もどう受け止めてよいのか戸惑ってしまうことがあります。
おすすめなのは、贈与のたびに、ひと言ふた言の手紙や、メモを添えること。「いつも気にかけてくれてありがとう」「お孫さんが元気に成長していることが、何よりの宝です」――そんなさりげない言葉が添えられているだけで、お金の重みがまったく違ってまいります。お子さんやお孫さんが、何年経っても「あの時、おじいちゃん(おばあちゃん)はこんな思いで渡してくれたんだ」と覚えていてくれる――それが、生前贈与のいちばん深い贈り物ではないでしょうか。
また、贈与のタイミングも大切です。お孫さんの入学や結婚、お子さん家族の家の購入、お孫さんの誕生など、人生の節目に合わせて贈ると、贈る側にも受け取る側にも、自然な気持ちのよさがあります。「使い道を指定しない」とおっしゃる方もいれば、「住宅資金として」「教育資金として」と目的をはっきりさせる方も。それぞれのお家の関係性に合わせて、心地よい渡し方を選ばれるのがよいでしょう。お子さんやお孫さんが、過剰に気を遣わず、「ありがとうございます」と素直に受け取れる金額――それが「無理のない手渡し」の目安です。
特別な非課税制度も、知っておくと安心
毎年の百十万円の基礎控除のほかにも、贈与税には、目的に応じたいくつかの特別な非課税制度があります。これらは年によって制度の有無や条件が変わることがありますので、最新の情報は税理士さんや国税庁のホームページで確認するのが大切ですが、二〇二六年現在の主なものを、参考までにご紹介いたします。
ひとつめは、「住宅取得等資金の贈与税の非課税」。お子さんやお孫さんが、初めて住む家を買ったり、リフォームしたりするための資金を、親や祖父母から贈与する場合に、一定額までが非課税になる制度です。条件や金額は、その年の税制によって変わりますので、利用される際には必ず最新の情報を確認してください。
ふたつめは、「教育資金の一括贈与」。お孫さんの大学進学や、教育費用を、まとめて贈与する際に、一定額まで非課税にできる制度です。これも要件や手続きがやや複雑ですので、銀行や信託銀行の窓口で相談されるとよいでしょう。みっつめは「結婚・子育て資金の一括贈与」。お孫さんの結婚や、ひ孫さんの子育てを支援する目的での贈与にも、一定の非課税枠があります。
これらの特別な制度は、たいへんありがたい仕組みですが、利用するためには税務署への届け出や、専用の口座を作るなど、いくつかの手続きが必要です。「私が渡したいのはこういう目的だから、どの制度が合うかしら」と思われたら、一度、税理士さんか、信託銀行・銀行の相続相談窓口で話を聞いてみるのがいちばん。多くの金融機関で、無料の初回相談を受け付けています。
生前贈与は、難しい税金のお話のように見えて、その本質は「いま、目の前にいる愛するご家族に、感謝の気持ちを伝えること」――それだけのことなのです。完璧な計画を立てる必要はありません。年に百十万円までの非課税枠を、ご無理のない範囲で、毎年少しずつ渡してみる。それだけでも、何年かたつと、ご家族のなかにしずかに大きな安心と、おじいちゃん・おばあちゃんへの感謝が積み重なっていきます。生前贈与は、お金の動きであると同時に、家族の絆を深めるひとつのしきたりでもある――そう考えると、ぐっと身近に感じられるのではないでしょうか。詳しい計算や手続きはプロにお任せして、私たちは「気持ちを伝えること」を、いちばんに大切にしたいものです。きっとお子さんやお孫さんは、頂いた金額の数字よりも、添えられた一言や、わたしてくれた時のお顔を、長く覚えていてくださることでしょう。お元気なうちに、お孫さんの手にそっと封筒を渡し、「これでね、好きなものを買いなさい」とほほえみかける――そんなしずかな時間こそが、人生の後半に贈られる、いちばんやさしい贈り物のかたちなのです。