笑うことは薬がわり、本当の話
笑顔が体にいいというのは、医学的にも少しずつわかってきています。気軽に笑える時間を増やす小さな工夫をご紹介します。
公開日: 2026年8月2日
「笑う門には福来たる」という言葉があります。子どもの頃にも、おばあさんから聞かれた方が多いのではないでしょうか。昔の人がふと口にしてきたこの言い伝えは、実は近ごろの研究でも、少しずつ理にかなった部分があるとわかってきているそうです。お薬ほどはっきりとは効きませんが、笑うひとときが体と心にもたらす変化は、思っているよりも大きいものです。今日は、誰にでも今日からできる、笑顔のある暮らしのお話をお届けします。
笑うとからだに起きていること
声を出して笑うと、お腹がふるえ、胸が大きく動きます。これは知らないうちに腹式呼吸をしているような状態で、ふだん浅くなりがちな呼吸が、ぐっと深くなります。深い息を繰り返すことで、体に酸素がよく行きわたり、肩や首にこもっていた緊張も、すっとほぐれていきます。「笑った後に妙に体が軽い」と感じるのは、こうした働きのおかげでもあるそうです。
また、笑うことで脳の血流が増え、気分を明るく保つホルモンが出やすくなる、ともいわれています。免疫力にもよい影響があるのではないか、と研究を続ける先生方もいらっしゃいます。もちろん、笑えば病気が治るというほど単純なものではありません。けれども、お薬を増やすかわりに、笑える時間を一日五分ふやしてみる――そんなささやかな選択肢が、暮らしのなかにあってもいいのではないでしょうか。
笑える時間を、毎日のなかにちりばめる
とはいえ、「さあ笑いましょう」と意気込んでも、笑いというのは案外、出てこないものです。大切なのは、自然に笑顔がこぼれる場面を、暮らしのなかにいくつか用意しておくこと。テレビの好きな番組、ラジオの落語、ご近所さんとの世間話、お孫さんからのLINEのスタンプ。気軽に立ち寄れる「笑いの入り口」を、ふだんからいくつか持っておくと、心がふっとほどける瞬間が増えてきます。
笑顔を生みやすい暮らしの工夫を、いくつかご紹介します。
- 夕方の三十分は、好きなお笑い番組やラジオを楽しむ時間にする
- 図書館で漫画やエッセイを借りてみる
- 電話やLINEで、気の置けない友人と週に一度話す
- 落語のCDや動画を、家事をしながら流しておく
- 鏡の前で、朝にひと笑い練習してみる
「作り笑い」もばかにできません
「面白くないのに笑うなんて、わざとらしい気がする」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。けれど、近ごろの研究では、たとえ作り笑いであっても、体は本物の笑いと似たような反応をしてくれるという報告があります。朝、洗面所の鏡に向かって、口の両端をきゅっと上げてみる――それだけで、その日一日の気分が少しだけ明るくなる、というお話を聞いたこともあります。
ひとり暮らしの方ほど、声を出して笑う機会は意識して作る必要があります。テレビをぼんやり見ているだけでは、笑い声はなかなか出ないものです。お気に入りの落語家さんを一人決めて、その方の演目を聞くと決めておく。地域の落語会や、笑いヨガの教室を覗いてみるのも、ひとつの選択肢です。お住まいの市区町村の広報誌や、図書館の掲示板には、こうした集まりのお知らせが意外と多く載っています。
笑顔の伝染力もまた、ばかにできない力を持っています。誰かが楽しそうに笑っているのを見るだけで、自分まで微笑んでしまった経験は、どなたにもあるはずです。お孫さんやお子さんが帰ってきた時の笑顔、ご近所さんと挨拶を交わすときのほほえみ、ペットの愛らしい表情――これらを意識して受け取るだけで、自分の笑顔も自然に増えていきます。逆に、ご自身が笑顔でいることは、まわりの方にも明るさを分けることになります。「あの方とお話すると、なんだかほっとする」――そう思ってもらえる存在になれるのも、笑顔のあるひとときを大切にしてきた方の、ささやかなご褒美です。気持ちが沈みそうな日こそ、口角をきゅっと上げてみる。それは決して無理をすることではなく、自分自身を大切にする、しずかな養生のかたちなのです。
笑うことは、お金もかからず、副作用もない、不思議な養生法のひとつです。気持ちが沈む日、体が重い朝、何もする気が起きない夕方――そんなとき、お薬を増やすよりも先に、笑える何かを探してみる。それは決して、現実から目をそらすことではありません。むしろ、明日を生きるための小さなエネルギーを、自分でつくり出す方法のひとつです。今夜のテレビでも、昔の漫才のDVDでも構いません。声を出して笑える時間が、あなたの一日のどこかに、そっと組みこまれていますように。「笑う門には福来たる」――この古い言葉が、今日もどこかで、誰かの暮らしを支えています。長く生きてきた方には、その言葉の重みが、若い人よりずっと深く届くはず。今日いちどでも、心からの笑顔がこぼれた一日であれば、それで何より上等です。明日もまた、笑える瞬間がそこここに散らばっている、そんな一日でありますように。テレビの前のあなたの笑顔が、家じゅうの空気をやわらげます。