大暑、一年でいちばん暑い時期
暦の上で最も暑さが厳しいとされる大暑。打ち水や夕涼みなど、日本人が古くから受け継いできた暑さとの上手なつきあい方を、今の暮らしに取り入れてみませんか。
公開日: 2026年7月24日
七月の下旬になると、暦のうえで「大暑」と呼ばれる節気がやってきます。「大」「暑」――文字をご覧になるだけで、汗がにじんでくるような言葉ですね。実際にこの時期は一年でもっとも暑さがきびしくなり、せみの声と入道雲が、まさに夏の盛りを告げてくれます。今日は、この大暑の意味と、日本人が古くから受け継いできた「暑さとの上手なつきあい方」のお話を、ゆっくりひもといてみたいと思います。
「大暑」とは、夏の暑さの折り返し
二十四節気のひとつである大暑は、毎年七月二十二日ごろ、夏至から数えて約一か月後にあたります。立秋(八月七日ごろ)の前の最後の節気で、この期間がちょうど夏の暑さのピークと重なる、と昔の方は考えてきました。「暑中見舞い」をお出しする時期も、おおむねこの大暑のころから立秋までとされています。
暑さがきびしい時期だからこそ、昔の人びとは知恵をしぼって暮らしを整えてきました。打ち水、夕涼み、麦茶、すだれ、よしず――こうした風習はどれも、お金をかけずに、自然の力をうまく使って暑さをやわらげる工夫です。電気もエアコンもない時代でしたから、その分こころと体で涼しさを生み出す感性が、暮らしのなかに息づいていたのですね。
大暑のころに取り入れたい、昔ながらの涼の知恵をまとめました。
- 朝夕の打ち水で、玄関先の温度をやさしく下げる
- すだれやよしずで、直射日光を窓辺で受け止める
- 麦茶やお番茶を、常温でこまめにいただく
- 朝晩の涼しいうちに、家事や買い物を済ませる
- 夕方の縁側や軒下で、しばし夕涼みのひととき
「打ち水」のちいさな科学
とくに打ち水は、ただの言い伝えではなく、実際に体感温度を下げる効果がある、立派な暑さ対策です。打った水が蒸発するときに、まわりの熱を奪っていく「気化熱」の働きによって、玄関先や庭先の温度がほんの数度下がるとされています。日が高くなる前の朝、もしくは日が傾く夕方に、ちょこっと水をまくのがコツです。
日中の暑い時間に打ってしまうと、かえって湿度が上がってむっとすることもあります。「朝のうち」「夕方の涼風が立つ前」――この二つを覚えておくと、効果が高まります。お孫さんがいらっしゃる方は、夕方の打ち水のひとときをお孫さんに頼んでみるのもいいですね。バケツとひしゃくを持って水をまく姿は、夏の絵になる風景でもあります。
体への負担を、しずかに減らす過ごし方
大暑の時期は、熱中症の危険が一年で最も高まる時期でもあります。外出を控える、こまめに水分をとる、エアコンを我慢しすぎない――こうした基本を改めて思い出すだけでも、体への負担はだいぶ減ります。とくにエアコンは、設定温度二十八度を目安に、扇風機やすだれと組み合わせて使うのが、無理のない使い方とされています。
食事の面でも、夏の暑さに向き合う知恵が古くからあります。大暑のころの旬の食材といえば、すいか、きゅうり、なす、おくら、トウモロコシ、ピーマンなど、水分や酵素を多く含む夏野菜。これらをしっかりいただくだけでも、からだの内側からのほてりがやわらぎます。「夏は野菜から水分を補う」――そんな日本人の食の知恵が、暑い季節の暮らしを支えてくれています。
七十二候で読みとく、大暑のうつろい
二十四節気をさらに細かく五日ごとに分けた七十二候のなかでも、大暑の時期はとくに美しい名前が並びます。「桐始結花(きりはじめてはなをむすぶ)」「土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)」「大雨時行(たいうときどきにふる)」――それぞれが、夏の盛りの自然の表情をやさしく言いあてた呼び名です。
とくに「大雨時行」は、夕立がしばしば降る大暑後半の様子をあらわした美しい言葉。突然空が暗くなり、ざあっとひと雨ふって、また空が晴れる――そんな夏のひとときを、昔の人もしずかに眺めていたのだなあと思うと、なんとも胸があたたかくなります。「桐始結花」は、桐の花が実をつけ始める時期。お庭にある木々の様子をふと見上げてみると、暦の言葉どおりの変化が、目の前にひそやかに広がっているのに気づかされます。
大暑の暑さは厳しいけれど、夏のクライマックスだからこそ味わえる風景も、たくさんあります。空に湧き上がる入道雲、夕立のあとの澄んだ空気、夜風にゆれる風鈴の音――。冷房を効かせた部屋ですぎる時間も大切ですが、ほんの十分でも縁側や窓辺で、夏の気配を体で感じてみる時間を持つと、季節とのつながりがぐっと近くなります。あと十日もすれば暦は立秋。「ああ、もう少しで秋」と思える日はすぐそこですから、暑さをこの夏らしいごちそうとして、最後まで楽しんで参りましょう。氷で冷やした麦茶をいただきながら、お孫さんに「大暑ってね」と昔の言葉をひとつ手渡してみるのも、夏らしいひとときになります。日本の四季の感性は、こうした節目の言葉の上に静かに育まれてきました。私たち一人ひとりが受け継ぐ、暮らしのなかの大切な財産です。