立冬、冬への扉がひらく日
暦の上で冬が始まる立冬。木枯らしが吹き、冬支度を始める時期です。家じゅうのストーブやファンヒーターを取り出す前にしておきたい三つのことをまとめました。
公開日: 2026年10月22日
十一月の七日ごろになると、暦のうえで「立冬」という日がめぐってきます。「立つ」というのは、新しい季節が始まるという意味。立春、立夏、立秋、立冬――一年に四度ある節目のひとつです。実際の体感では、まだ秋の名残が漂っている時期かもしれません。木々の葉が色づき、朝晩の風はひんやりとしてきたけれど、お昼間はあたたかい日もある――そんな、ふたつの季節が重なるような時期に、暦は静かに「冬のはじまり」を告げています。きょうは、この立冬という日と、冬への支度を始めるにあたっての小さな心がけのお話をいたします。
立冬とはどんな日か
立冬は、二十四節気のひとつで、太陽が黄経二二五度の位置に達したときをいいます。むずかしい言い方ですが、要するに、お日さまの位置から「ここから冬」と昔の人が決めた日のことです。二〇二六年の立冬は十一月七日。この日から、次の節気である「小雪」の前日まで、およそ十五日間が立冬の期間とされています。
「もう冬?」とお感じになる方もいらっしゃるでしょう。たしかに、立冬のころはまだ紅葉の盛りで、ストーブを出すには早い、と思える日も多いものです。けれども、昔の人は「これから日が短くなり、寒さが本格化していく時期」を、立冬という言葉に込めました。雪国の方々にとっては、初雪の便りがそろそろ聞こえはじめるころでもあり、農家のみなさんは、田畑の冬支度に取りかかる節目でもありました。
立冬には、地方によってさまざまな風習があります。中国では「立冬補冬」といって、滋養のあるものを食べて冬を迎える準備をする習慣があり、日本でも一部の地域で、お餅やお豆を食べて健康を祈る風習が残っています。最近では、立冬を「鍋の日」として、家族で温かいお鍋を囲む方も増えてきました。寒さに向かう体を、内側から温めて、健やかに冬を越そう――そんな先人の知恵が、いまも息づいている日なのです。
家のなかで、冬支度に取りかかる三つのこと
立冬は、本格的な寒さが来る前に、家じゅうの冬支度を整える、ちょうどよいきっかけになります。「もう少ししてから」と先延ばしにすると、急な寒波で慌てることになりがちです。お年を重ねてからの寒さは、体への負担も大きくなりますから、ゆっくり早めに準備をしておきましょう。とくに大切な三つを、まとめてみました。
- 暖房器具の点検――ストーブ・ファンヒーターを試運転し、灯油やフィルターを確認
- 防寒着の入れ替え――コート、マフラー、手袋、毛布、布団のかけ替え
- 結露・乾燥への備え――加湿器の出し入れ、結露防止グッズの確認
まずひとつめ、暖房器具の点検です。ファンヒーターやストーブは、しばらく使わない期間に内部にほこりがたまっていることがあります。「点けてみたら煙が出てびっくり」「灯油が古くなっていて着火しなかった」――そんな話は、毎年寒くなった頃に聞こえてきます。立冬のころに一度、試運転をしてみる。フィルターを掃除する。灯油を新しいものに入れ替える――そのひと手間が、寒い夜の安全を守ってくれます。本格的に寒くなる前に、灯油タンクや配管の点検も忘れずに。
ふたつめ、防寒着の入れ替え。コート、マフラー、手袋、ストール――秋の半袖と一緒に、冬物を取り出す日を決めましょう。一気にやろうとすると疲れますから、午前中にコートだけ、午後にマフラーと手袋だけ、と分けて進めるのがおすすめです。お布団も、夏掛けや薄手のものから、冬掛けや毛布に替える時期。羽根布団や毛布は、出してすぐお使いになるのではなく、晴れた日にひとたびベランダに干して、湿気を飛ばしてからお使いになると、ふっくらして気持ちがよいものです。
みっつめ、結露と乾燥への備え。冬になると、窓辺の結露と、お部屋の乾燥――この相反するふたつの悩みが同時にやってきます。結露を防ぐシートを窓に貼る、加湿器を出して水を新しくする、洗濯物をお部屋に干して湿度を保つ――冬の暮らしを快適にする小さな工夫を、立冬のころから少しずつ整えていくと、十二月の寒波が来てもあわてません。
体も、内側から冬じたく
家のなかの整えと同じくらい大切なのが、体の冬支度です。お年を重ねますと、寒さへの順応にも、少しずつ時間がかかるようになります。立冬のころから、少しずつ、体を冬に慣らしていく――そんな気持ちで、毎日の暮らしを整えていかれるとよいでしょう。
お風呂の温度を少しぬるめにして、長めに浸かる時間をつくる。あさのお散歩には、もう一枚はおって出る。湯のみのお茶を、夏のあいだの冷たいものから、ほっとあたたかいものへ。お食事も、生野菜のサラダから、根菜たっぷりのお味噌汁や煮物へと、少しずつ献立を移していく――こうした小さな転換が、お体に「もうすぐ冬ですよ」と伝えてくれます。とくに、ごぼう、にんじん、れんこん、大根、白菜などの冬野菜は、お体を内側から温めてくれる、自然の恵みです。立冬の食卓に、これらをひとつでも取り入れてみるのは、いかがでしょうか。
そして、冬は乾燥の季節。のどや皮膚の乾きは、知らないうちに進みます。お水を一杯、ふだんよりこまめにとる習慣を、立冬のころから始めてみてください。お部屋の加湿、唇のリップクリーム、お肌の保湿クリーム――そういった「冬の道具」を、洗面所の見えるところに出しておくと、自然と使うようになります。インフルエンザやかぜが流行りだすのも、ちょうどこの時期からです。手洗い、うがい、こまめな水分補給――昔ながらの基本を、ご家族みなさんで思い出す節目にもなりますね。
立冬という言葉は、それ自体が「立つ」――つまり、新しい季節へと身を起こす、という響きをもっています。秋の名残を惜しみながらも、冬の扉がひらく日。窓を開けて、深く息を吸って、冷たさのなかにかすかな冬の気配を感じてみてください。これから三か月ほどのあいだ、私たちは寒さとともに暮らしていきます。けれどそれは、ぬくもりを慈しむ時間でもあります。湯たんぽ、お鍋、家族でこたつを囲む夜――冬には冬にしかない、しずかな喜びがあります。立冬の日に、ほんの少しだけ手を動かしておく――それが、これから巡る冬の日々を、やわらかなものにしてくれるはずです。今年の冬も、ご家族みなさんで、健やかにお過ごしになれますように。立冬の朝、ふと窓越しに見上げた空に、いちばん最初の冬の風を感じる――そんな静かな瞬間こそが、季節の節目を生きるよろこびなのかもしれません。
また、立冬のころは、お子さんやお孫さんに「冬ものを送ろうか」とひと声かけるよい機会でもあります。離れて暮らすご家族に、手編みのセーターやマフラー、お住まいの地域の名産のお菓子を、宅配便でぽんと送る――それだけで、年末年始まで待たずに「冬ですよ、寒くなりましたね」というお便りを届けることができます。お電話やLINEでひと言「立冬になったね、体に気をつけてね」と伝えるだけでも、ご家族はじんわりとあたたかい気持ちになります。季節の節目は、私たちが家族や友人を思い出す、とても自然なきっかけになってくれる――それも、二十四節気がもつ、しずかな恵みのひとつなのかもしれません。立冬を境に、ご自分の冬支度と、大切な人への気遣い――そのふたつを、すこしずつ整えていきたいものですね。冬の足音を、心からの楽しみに変えていけるのは、長く季節を見送ってきたみなさんならではの、しずかな知恵なのです。