お月見、満月の前後で楽しむ
中秋の名月だけでなく、前後の夜にも別の名前があります。三日続けて空を見上げる、ささやかな秋の楽しみです。
公開日: 2026年9月22日
九月も中ごろを過ぎ、夕方の風がぐっと涼しくなってきました。空気が澄んでくると、夜空の月もまた一段と明るく、はっきりと姿を見せてくれます。秋といえばお月見――中秋の名月という言葉を耳にすると、なんだか胸の奥がふっとほどけるような心地がしませんか。お団子を備えてススキを飾る、そんな昔ながらの習わしが今もどこかに残っています。けれど、お月見が楽しめるのは、中秋の名月の一夜だけではありません。実は、その前後の月にも、それぞれ味わい深い名前があるのです。今日は、三日続けて空を見上げる、ささやかな秋の楽しみ方をご紹介します。窓辺やベランダから、お庭から、ご近所のお散歩がてら――どこからでもできる、心ほどけるお月見のお話です。
中秋の名月、ひとつの夜だけではないお月見
中秋の名月は、旧暦の八月十五日にあたる日の月で、今の暦では九月から十月のあいだに巡ってきます。今年の中秋の名月がいつになるかは、毎年少しずつ変わります。新聞やテレビの天気予報、図書館で借りる『今年の暦』などで確かめてみてください。日本では古来、この日に月を眺めながらお団子やススキを供える風習が伝わってきました。十五個のお団子と、稲穂に見立てたススキ、季節の里芋などをお供えして、家族で月を眺める――そんな素朴な行事のなかに、私たちは秋の豊かさを感じてきたのです。
ところが、ご存じでしょうか。この中秋の名月の翌晩の月には「十六夜の月(いざよいのつき)」という、美しい名前がついています。「いざよい」とは「ためらう」という意味の古い言葉で、満月の翌日は月の出が少し遅くなることから、月がためらいながら出てくる――そんな感性で名づけられたのだそうです。さらに、その次の晩は「立待月(たちまちづき)」。立って待っているうちに月が出る、という意味です。続いて「居待月(いまちづき)」「寝待月(ねまちづき)」と、出てくる時間が遅くなるにつれて、月を待つ姿勢の名前がついていきます。
中秋の名月の前後、月にまつわるささやかな名前を集めました。
- 十三夜(じゅうさんや)――名月の二日前、控えめでまろやかな月
- 十四夜(じゅうしや)――名月の前夜、ほぼ満月の美しい姿
- 中秋の名月――旧暦八月十五日、満月(または満月に近い月)
- 十六夜(いざよい)――名月の翌日、ためらうように昇る月
- 立待月(たちまちづき)――名月の二日後、立って待つうちに出てくる月
- 居待月(いまちづき)――名月の三日後、座って待つほど月の出が遅い
- 寝待月(ねまちづき)――名月の四日後、寝て待つほど遅く昇る月
三日続けて空を見上げる、小さな楽しみ
ぜひ今年は、中秋の名月の夜だけでなく、その前夜と翌晩の月も見上げてみてはいかがでしょうか。「同じ月、見るのは一日違うだけ」――そう思うかもしれませんが、実はまったく違う表情を見せてくれます。前夜の十四夜の月は、まだ完全な丸ではないものの、ふっくらと豊かな姿。翌晩の十六夜の月は、ほぼ満月のまま、ほんの少し欠け始めた繊細な美しさ。三日続けて眺めると、月が満ちて欠けていく自然のリズムを、肌で感じることができます。
お月見というと、なにか特別な準備が必要なように感じる方もいらっしゃるかもしれません。けれど、まったくそんなことはないのです。お団子もススキもなくても構いません。窓を少しだけ開けて、夜の空気を吸い込みながら、しばらく月を眺める――それだけで立派なお月見です。お部屋の電気を少し落とすと、月の明かりがいっそう美しく感じられます。お茶を一杯入れて、お饅頭でも添えれば、もうそれは贅沢なお月見の一夜。お一人でも、ご夫婦でも、お孫さんと一緒でも、それぞれのかたちで楽しめるのが、お月見のいいところです。
また、もし夜のお散歩ができるご様子でしたら、ぜひお外に出て月を見上げてみてください。建物の屋根の上に浮かぶ月、街路樹のあいだから覗く月――いつもの通りも、夜の月明かりの下では別の表情を見せてくれます。ただし、夜のお散歩は安全にも気を配って、お一人で出かける際にはご家族に行き先を伝える、明るい場所を選ぶ、転ばないようにゆっくり歩く――そんな心づもりを忘れずに。お孫さんがいらっしゃる方は、ぜひ「今夜は十六夜の月だよ」と教えてあげてください。月にこんなにたくさんの名前があることを、お孫さんもきっと驚いて聞いてくれることでしょう。
十三夜と栗名月、もう一つのお月見の風習
そして、もう一つお伝えしたい、日本ならではの素敵な風習があります。中秋の名月のおよそ一か月後、旧暦の九月十三日には「十三夜(じゅうさんや)」と呼ばれる、もう一つのお月見の夜がやってきます。中秋の名月が「芋名月」と呼ばれるのに対し、十三夜は「栗名月」「豆名月」とも呼ばれ、栗や豆をお供えする風習があります。少し欠けた月の風情を愛でる、日本人ならではの感性が感じられる行事です。
古くから、中秋の名月と十三夜の両方を見ることを「両見月(りょうみづき)」と呼び、片方しか見ないことを「片見月(かたみづき)」と言って縁起がよくないとされてきました。完璧な満月だけでなく、満ちる前の控えめな美しさにも目を向ける――そんな日本人の繊細な美意識が、この風習には込められています。今年の十三夜がいつになるかは、こちらも暦で確かめてみてください。中秋の名月から指折り数えて、お月見の予定を立てるのも、秋の楽しみのひとつになります。
お月見を「やらなければならない行事」と考えると、なんだか肩に力が入ってしまいます。けれど、「ただ夜空を見上げる時間」と捉えれば、こんなに気軽で、こんなに豊かな時間はありません。一日働いた後、夕食を終えて、お風呂に入る前のほんのひととき、窓辺に立って空を見上げる――その十分が、忙しい毎日のなかの、しずかな贅沢になります。
夜空を見上げると、なぜか心が静かになっていきます。月の満ち欠けは、私たちが生まれる前からずっと続いてきた、自然の大きなリズム。そのリズムに、ほんの一晩だけ私たちも合わせてみる――それがお月見というささやかな儀式の意味なのかもしれません。今年の中秋の名月、前夜の十四夜の月、翌晩の十六夜の月、そして一か月後の十三夜――どうぞそれぞれの夜を、ご自分のかたちで楽しんでいただけたらと思います。空を見上げるそのひとときが、これからの日々のささやかな光になりますように。お孫さんやご家族と「今夜は何の月だっけ?」と話題にできるだけで、月の出る夜が少しだけ特別なものに変わっていきます。月との対話は、世代を越えて受け継がれていく、しずかな日本の文化のひとつです。お団子は買わなくても構いません、ススキも飾らなくて大丈夫。窓辺の椅子にそっと腰かけて、お茶を一杯入れて、月を見上げる――ただそれだけで、十分にお月見になります。同じ月を、遠く離れて暮らすご家族や友人もきっと眺めているのだと思えば、夜空はとても近いものに感じられます。涼やかな秋風のなかで、しずかなお月見の時間をどうぞお楽しみください。今年もまた、月との小さな再会の季節がやってきました。月の光が窓辺に差し込むとき、その柔らかな白さに包まれているだけで、心がふっと落ち着いていきます。秋の夜長、ぜひゆったりとした時間をお過ごしくださいませ。月見団子の代わりに、お饅頭でも、おだんごでも、季節の和菓子をひとつ添えるだけで、ぐっとお月見らしさが増します。お一人でしずかに、ご夫婦でしみじみと、それぞれのかたちで秋の月を愛でていただけたら、と願っております。