お盆や正月の集まり、無理をしないもてなし
久しぶりに会える喜びと、準備の疲れは紙一重。みんなで少しずつ持ち寄る、頼り上手なもてなしのかたちをご紹介します。
公開日: 2026年10月17日
お盆やお正月、ご家族みなさんが集まる日が近づいてくると、嬉しさと同時に、ちょっとした不安も顔をのぞかせます。「お料理はどうしよう」「人数分のお布団は足りるかしら」「お風呂やお手洗いの順番は」「子どもたちのおもちゃのスペースは」――頭のなかで、しなければならないことが次から次へと並んでまいります。久しぶりにお子さんやお孫さんに会える嬉しさよりも、準備の大変さで疲れ切ってしまい、「もう、当日が始まる前から動けない」というご経験のある方も、きっといらっしゃることでしょう。きょうは、そんな集まりの日に、無理をせず、けれどしっかり「いい時間」を過ごすためのお話をいたします。「すべてを完璧におもてなしする」のではなく、「みんなで少しずつ持ち寄る、頼り上手なもてなし」――これからのご家族の集まりの、新しいかたちです。
「全部、自分で」を、そろそろ卒業してみる
お年を重ねるとともに、おもてなしの体力は少しずつ変わってまいります。若いころは、朝から夕方までお台所に立ちっぱなしでもへっちゃらだったお料理も、いまでは三時間も立てば、腰や膝にこたえてしまいます。けれど、長年の習慣で「家族が来るなら、これだけはちゃんと作らなくちゃ」「お雑煮、おせち、お刺身、お吸い物、お惣菜――ぜんぶ揃えて、お迎えしなくちゃ」と、ご自分にハードルを上げてしまいがちです。
けれど、よくよく考えてみますと、お子さんやお孫さんがいちばん喜んでいらっしゃるのは、立派なお料理よりも、「みんなで集まって、おしゃべりすること」そのものなのです。お母さんが疲れ切って、お台所のすみで休んでいらっしゃる姿よりも、笑顔で一緒にテーブルを囲んでいらっしゃる姿のほうが、ずっとお孫さんの記憶に残ります。「うちのおばあちゃんは、いつも台所で動いていて、ゆっくり座って話してくれなかったわ」――そんな思い出より、「うちのおばあちゃんは、お正月にみんなで笑っていたの」――そんな思い出のほうが、何倍も温かく残るはずです。
これからの集まりで、少しだけ手放したいことを並べてみました。
- 全部、自分のお台所で手作りすること
- お料理を最初から最後まで、一人で仕切ること
- 「お客さま」のように、家族をもてなすこと
- お皿洗いやお片付けまで、自分でやってしまうこと
- 完璧なお部屋・お布団・お風呂の状態を保つこと
「持ち寄り」のかたちを、家族で当たり前にする
頼り上手なもてなしのいちばんの基本は、「持ち寄り」の習慣を、ご家族の文化にしていくことです。「お母さん、お正月、何作ろうか?」とお嫁さんやお嬢さんからお電話があったときに、「ううん、いいわよ、ぜんぶ作っておくから手ぶらでいらっしゃい」と言ってしまうのではなく、「じゃあ、煮物だけお願いしようかしら」「サラダとデザートをお願いね」と、はっきりお願いしてみる。最初は少し抵抗があるかもしれませんが、これが、これからの集まりをぐっと軽やかにする魔法の言葉になります。
お嫁さん、娘さん、息子さんのご家族――それぞれが少しずつ何かを持ってこられれば、お母さんの負担はずいぶん減ります。お刺身は息子さんが帰り道のお魚屋さんに寄って買ってきてもらう。デザートはお嫁さんの得意分野。煮物だけは、お母さんが朝から仕込んでおく。お雑煮も、餅だけはお母さんが用意して、お汁とお具はみんなで作る――そんなふうに、お台所に立つ役を回していくと、お料理を作っているあいだも、自然と会話が生まれていきます。
「お母さん、煮物のお出汁、どうやってとってるの?」「ねえ、おばあちゃん、お餅、もう一個焼いて」――お台所が、おもてなしの場ではなく、家族の交流の場になっていく。これは、お年を重ねた方にしか伝えられない料理の知恵を、次の世代に手渡していく時間にもなります。お料理は、いつかは誰かが受け継いでいくもの。「全部やってしまう」よりも、「一緒に作る」ほうが、ずっと豊かな贈り物が残るのです。
お布団も、お風呂も、ゆとりを持って
お料理だけでなく、お泊まりのご家族へのお部屋まわりの準備も、お母さんを疲れさせる大きな要因です。お布団を出して干して、シーツを替えて、お部屋の隅々まで掃除して、お風呂もきれいにして――そんな段取りを、一日や二日でやってしまおうとすると、お客さまをお迎えする前にぐったりしてしまいます。これも、少し早めの準備と、家族へのお願いを組み合わせてみてください。
お布団は、集まりの一週間前くらいから少しずつ出して、お天気の良い日に分けて干します。一日に一組ずつでも構いません。シーツや枕カバーも、その都度一組ずつ、お洗濯のついでに替えていけば、当日に慌てる必要がなくなります。「ええい、全部一日でやってしまえ」ではなく、「一週間かけて、少しずつ整える」――それが、シニア世代のおもてなしのコツです。お風呂のお掃除や、お手洗いの磨きも、二、三日前から少しずつでよいのです。
また、お子さん家族がいらっしゃったときに、「お風呂、こちらで先に入っていただいていい?」「お布団敷くの、手伝ってくださる?」と、はっきりお願いするのもよいことです。お孫さんが大きくなってきたら、「ばあばと一緒に、お布団敷こうか」と声をかければ、子どもにとっても楽しいお手伝いの時間になります。「お母さんに任せきり」ではなく、「みんなでこの家を作る」――そんな雰囲気が、家族のあいだに育っていきます。
「お疲れさま」の時間を、ちゃんとつくる
集まりの一日が終わったあと、みなさんが帰られたあとに、急いで後片付けに突入するのも、お年を重ねた身にはこたえます。お皿の山を見て、「ああ、明日も大変だわ」とため息をついてしまう前に、ぜひこんな工夫を取り入れてみてください。当日の最後に、家族のみなさんに「お皿洗いだけ、一緒にやってってね」と、お声をかけるのです。みんなで手分けすれば、十分ほどで終わってしまいます。お母さん一人で、翌日の昼まで、お皿洗いに追われる必要はありません。
そして、みなさんが帰られたあとは、ご自分のための「お疲れさま」の時間を、必ずおつくりください。お風呂にゆっくりつかる、好きな番組を観ながらお茶をいただく、お疲れの体をいたわって、何もしないで横になる――そんな時間が、次の集まりを楽しみに待てる気持ちにつながります。「集まりは楽しかったけれど、もう疲れた」ではなく、「集まりは楽しくて、疲れもちょうどいい」――そんな塩梅に、少しずつ移していけたらよいですね。
お盆もお正月も、何十年もご家族のために走り続けてこられたお母さん。これからは、走るペースを少しだけゆるめて、ご家族の輪の真ん中で、ゆったりと座っていらしてください。お料理を運ぶよりも、お話を聞く。手を動かすよりも、笑顔をふりまく。「お母さんがにこにこしているだけで、わが家は十分」――そんなふうに、家族はきっと感じてくれているはずです。これからの集まりが、お母さんにとっても、ご家族にとっても、しみじみと楽しいひとときになりますように。一年に何度かしか会えないご家族の時間だからこそ、お互いがゆとりを持ちあえる、温かな空気を大切に育てていきたいものですね。お母さんが楽をすることは、決して怠けることではありません。むしろ、これからも長く家族の輪の中心にい続けるための、いちばん賢い選び方なのです。あなたの笑顔こそが、ご家族にとっていちばんのご馳走なのですから。