お盆の準備、迎え火と送り火
帰ってこられるご先祖さまを迎えるお盆。地方によって作法はさまざまですが、迎え火と送り火に共通する思いは「ようこそ」と「またね」。家族でゆっくり過ごしたい時期のお話です。
公開日: 2026年8月13日
八月の半ば、街の通りからふっと人の流れがゆるやかになる頃。お盆という日本のいちばん古い行事のひとつが、毎年めぐってきます。ご先祖さまが帰ってこられるという、しずかな言い伝え。子どもの頃にお祖父ちゃんやお祖母ちゃんと一緒に、玄関先で小さな火を焚いた思い出をお持ちの方も、多くいらっしゃるのではないでしょうか。今日は、お盆の中心にある「迎え火」と「送り火」について、その作法と心のかたちを、ゆっくり振り返ってみるお話です。
迎え火は「ようこそ」のしるし
お盆の初日、多くの地域では八月十三日の夕方に「迎え火」を焚きます。玄関先や門の前で、おがらと呼ばれる麻の茎を小さく束ねて、ぱちぱちと音を立てながら焚き上げる――その煙とあかりを目印にして、ご先祖さまの魂が家に帰ってこられる、と昔から言い伝えられてきました。「ようこそ、お帰りなさい」という気持ちを、声に出さずとも、火の揺らぎで伝える。それが迎え火のしずかな役割です。
地域によっては、お墓まで提灯を持って迎えにあがる風習が残るところもあります。あかりを灯した提灯を片手に、家までの道のりをゆっくりと歩く。その道中で、亡くなったお父様やお母様、お祖父様、お祖母様――ご先祖さまの面影を、ふと思い浮かべる方も多いでしょう。形は地域ごとにちがっても、根っこにあるのは「ようこそ、待っていました」というあたたかな気持ちです。
お盆の期間に、家族で大切にしたい小さなしきたりをまとめました。
- 八月十三日の夕方に迎え火を焚く(地域により七月の場合も)
- 仏壇やお盆棚に、ご先祖さまの好物を供える
- なすときゅうりに割り箸を刺した「精霊馬」を飾る
- 盆提灯のあかりを、お盆の期間中ずっと灯しておく
- 八月十六日(または十五日)の夕方に送り火で見送る
精霊馬と盆棚、家族のしつらえ
お盆の飾りで目を引くのが、なすときゅうりで作る「精霊馬」です。きゅうりは足の速い馬、なすはゆっくり歩く牛とされ、ご先祖さまには「行きはきゅうりの馬に乗って早く帰ってきてもらい、帰りはなすの牛にゆっくり乗ってお戻りいただく」という、なんとも情のこもったしつらえです。割り箸を四本さして足を作るだけの素朴な飾りですが、子どもやお孫さんと一緒に作ると、家族の会話もぐっと深まります。
仏壇の前や、特別にしつらえた盆棚には、お盆の時期だけの飾りつけがあります。蓮の葉のお皿、季節の果物、ほおずきの実、そして故人が好きだったお菓子やお酒、煙草――いまの暮らしに合わせて、肩の力を抜いた飾りで構いません。立派でなくとも、心がこもっていれば十分です。盆提灯のやわらかなあかりは、家じゅうの空気を不思議とほどいてくれます。お盆の数日間だけは、テレビを消して、家族でしずかに過ごしてみる――そんな時間も、現代の私たちには貴重な「ひととき」になります。
送り火は「またね」のしるし
お盆の最終日、多くの地域では八月十六日の夕方に「送り火」を焚きます。迎え火と同じく、玄関先や門の前で、ぱちぱちと音を立てて燃やす火。けれども、その意味はぐっと変わります。「もう少し、ゆっくりしていってくださいね」という名残惜しさと、「また来年もお会いしましょう」という、しずかな約束。日本の各地で受け継がれてきた、深い余韻のあるしきたりです。京都の大文字焼きや、各地の灯篭流しも、もとは送り火の流れに連なる行事だと言われています。
現代の住宅事情では、玄関先で火を焚くこと自体が難しい場合も増えています。マンションのベランダで火を焚くわけにもいきませんし、ご近所に煙が流れるのを気にされる方もいらっしゃるでしょう。そんな時には、無理に伝統の形式にこだわらず、仏壇の前にろうそくを灯し、線香を焚いて手を合わせる――それで十分にお気持ちは届きます。盆提灯のあかりを少し長めに灯したり、ご先祖さまの好きだったお菓子をお供えしたりするだけでも、立派なお迎えと送り出しになります。形より大切なのは、家族で集まり、亡くなった方を思い出す、その時間そのもの。今年のお盆も、ご先祖さまへの「ありがとう」と「また来年」を、ゆっくりと心のなかで言葉にしてみる――そんなしずかなひとときが、慌ただしい日々のなかで、何より大切な「ひととき」になるはずです。
盆提灯のあかりを眺めていると、亡くなった方々が、ふっとそばに戻ってきてくださっているような気持ちになります。お盆という日本のしずかな行事は、命のつながりを意識する大切な数日。ご先祖さまへの感謝を込めて、今年もしずかに迎え火と送り火を焚く――その繰り返しのなかに、家族の歴史が静かに刻まれていきます。あらたまった形式を整えるのが難しい年でも、心のなかで手を合わせる時間さえあれば、それで十分。お子さんやお孫さんに「うちのお盆は、こうやって過ごしてきたのよ」と話を伝えるひとときもまた、世代を越えた贈り物になります。今年のお盆も、どうかしずかで穏やかな数日でありますように。