ことわざを暮らしに引き寄せて読む
「急がば回れ」「石の上にも三年」。改めて読み直すと、いまの暮らしにすっと届く言葉に出会えます。
公開日: 2026年7月18日
子どもの頃、学校で習ったたくさんのことわざ。「急がば回れ」「石の上にも三年」「七転び八起き」――。テストのために覚えた言葉が、いつのまにか暮らしのあちこちに溶け込んでいたことに、ふと気づかれることはありませんか。ことわざは、何百年もまえの人びとが、暮らしのなかで磨いてきた知恵のかたまりです。改めて一つひとつ読み直してみると、いまの私たちにもそっと届く言葉に出会えるものです。今日は、暮らしのなかで味わいたいいくつかのことわざのお話を、ご紹介します。
年齢を重ねたいま、しみじみと響く言葉
若いころは聞き流していた言葉が、年齢を重ねたいま、急に心に染み入ってくる――そんな経験をお持ちの方も多いと思います。たとえば「急がば回れ」。若いころは「面倒な遠回り」と感じていたものが、いまになると、まわり道のなかにこそ大切なものがあった、と気づく場面が増えてきます。階段よりエレベーターを選ぶ、無理して動かず一日ゆっくり休む――そんな日々の選択も、すべて「急がば回れ」だと思えば、不思議と気持ちが楽になります。
「石の上にも三年」も、改めて噛みしめたい言葉です。三年というと、いまの暮らしのなかでは決して短くない時間。新しい趣味や運動を始めても、すぐに結果が出ないことに焦ってしまいがちですが、三年は続けてみる、と決めれば、また違った景色が見えてきます。実際、編み物でも、卓球でも、書道でも――三年続けた方の手や目には、確かな味わいが生まれてくるものです。
シニアの暮らしに、すっと響くことわざをいくつかまとめました。
- 「七転び八起き」――何度も立ちあがる、強さの心
- 「ちりも積もれば山となる」――小さな一歩が、いつか宝物に
- 「医者の不養生」――他人にいう前に、まず自分を
- 「親しき仲にも礼儀あり」――近しい人ほど、ていねいに
- 「立つ鳥跡を濁さず」――去り際の身じまいを、美しく
ことわざは、家族とのちいさな会話の種
ことわざのおもしろさは、その短い言葉のなかに、いくつもの読み方が眠っていることです。同じ「石の上にも三年」でも、ある人にとっては「我慢」を意味し、別の人にとっては「楽しんで続ける時間」を意味します。お孫さんと一緒に「これってどういう意味だと思う?」と話し合うのも、楽しいひとときです。お孫さんが「いまだったらこう言うかも」と言い換えてくれることもあって、ふだん使わない頭の場所がちょっと動きます。
また、ことわざを使うと、お話に深みが生まれます。たとえば、ご近所さんとの会話で「うちの孫がね、習い事を半年でやめちゃって」と話すときに、「まあ、石の上にも三年っていうから、もうちょっと様子をみるわ」とひとことそえるだけで、不思議と話が落ち着きます。むかしの言葉が、いまの会話の「のりしろ」のような役目を果たしてくれるのです。
ことわざは、地方によっても少しずつ表現が違ったり、もとは中国の故事から来ていたり、その来歴をたどるのもひとつのたのしみです。「井の中の蛙、大海を知らず」――この続きには「されど空の高さを知る」という言葉が後世に付け加えられた、というお話もあります。ひとつのことわざが、長い年月のあいだに、いろいろな人の手で磨かれ、ときに別の角度から見直されてきた――そんな言葉の生命力にふれるのも、シニアの楽しみのひとつだと思います。短い言葉だからこそ、解釈の余白が広い。そこにも、ことわざの懐の深さがあります。
座右の銘――生涯のひとことを、ひとつ
数あることわざのなかで、ご自身の「座右の銘」と思える言葉を、ひとつ選んでみてはいかがでしょうか。財布のなかに小さく書いた紙を入れておく、玄関にひとこと張る、手帳の表紙のうらに書く――そんなささやかな方法で、毎日その言葉と顔を合わせていると、不思議と心が整います。
「七転び八起き」でも、「人事を尽くして天命を待つ」でも、「一日一善」でも――何でもいいのです。長く付き合えそうな、ご自身のなかでしっくりくるひと言を選ぶ。年に一度、お正月や誕生日に見直してもいいですし、何十年もずっと同じ言葉と歩むのも、また味わいがあります。古くから伝わるたくさんの言葉のなかから、あなただけの一行を、暮らしの真ん中にそっと置いてみる――そんなひとときから、いまの日々がまた少しだけ豊かになっていくのを、ぜひ感じてみてください。
図書館のことわざ辞典をぱらぱらとめくってみると、知らなかった言葉や、聞いたことはあっても意味を取り違えていた言葉に、次々と出会えます。「情けは人のためならず」――いまの若い方は「人のためにならないからやめなさい」と解釈することもあると聞きますが、本来は「人にかけた情けは、めぐりめぐって自分に返ってくる」というあたたかい意味。こうした「本来の意味」を改めて知ると、ことわざはぐっと身近になります。お孫さんと一緒に辞典をめくる夏休みの午後――それもまた、ことわざとの素敵な再会のきっかけになるかもしれません。