俳句の入り口、五七五の十七音
むずかしい句を作らなくても、十七音に景色をのせるだけで楽しめます。今日見た空、聞こえた音を一句に。
公開日: 2026年7月6日
俳句、と聞くと、「むずかしそう」「私には縁がない」と身がまえてしまう方が多いかもしれません。けれども、俳句は本来、もっと自由で、もっと身近なものです。たった十七音に、いまこの瞬間の景色や気持ちをそっと包む――それだけで、もう立派な一句が生まれます。今日は、五七五の世界の入り口を、ゆっくりとご一緒にひらいてみますね。
五七五に、目に映ったものを一つ
俳句のかたちは、基本「五・七・五」の十七音でできています。五音、七音、五音と区切って、リズムよく言葉を並べるだけです。むずかしく考えず、まずは「いま、目に入った景色を一つ言ってみる」ところから始めてみてください。
たとえば、朝のお散歩で「ああ、紫陽花がきれいに咲いてる」と思ったとします。それを十七音にすると、「あじさいの 雨にしっとり 庭の朝」――こんなふうに、なんてことのない呟きが、一句に変わります。きれいに表現しようと頑張らないことが、何よりのコツです。
俳句には、もうひとつ大切な決まりごとがあります。それが「季語」です。季語とは、その季節を表す言葉のこと。「桜」「春一番」「梅雨」「向日葵」「紅葉」「初雪」――こうした言葉を一句に一つ入れると、ぐっと俳句らしくなります。
- 春の季語の例:桜、菜の花、雛祭、卒業
- 夏の季語の例:向日葵、蝉、夕立、麦わら帽子
- 秋の季語の例:月、紅葉、稲穂、虫の音
- 冬の季語の例:雪、こたつ、ゆず湯、寒鴉
- 新年の季語の例:初日、お年玉、書き初め
季語は、本屋さんの「歳時記(さいじき)」を一冊そばに置いておくと、迷ったときの心強い味方になってくれます。
「上手に作る」より、「気づく目」を養う
俳句が楽しいのは、「上手に作ること」ではなく、「いままで気づかなかった景色に気づくこと」にあります。十七音にしようと思って身の回りを見渡すと、急に世界が細やかに見えはじめます。台所の窓辺で揺れる風鈴の音、夕方のうすむらさきの空、近所のお庭で大きくなった胡瓜――それぞれが、一句のたねになります。
俳句を始めると、「今日はどんな一句が生まれるかしら」と、毎朝の暮らしに小さなわくわくが加わります。手帳の片隅に、思いついた句を書き留めるだけで、その日が記念日のような気分になるから、不思議です。
もし、ご自分一人ではなかなか続かないという方は、地元の公民館や、新聞・雑誌の投句欄、NHKの俳句番組などをのぞいてみるのもおすすめです。同好の士に出会うと、また違ったたのしみがひらけてきます。
はじめの一句、こんなふうに作ってみる
では、実際に一句作ってみましょう。手順はいたって簡単です。第一に、いま目の前で気になるものをひとつ選ぶ。第二に、それが何を感じさせるかを思い浮かべる。第三に、五七五のリズムに乗せて言葉を並べる――それだけです。
たとえば、今朝の食卓に出した冷たい麦茶。「麦茶」は夏の季語です。そこに「祖母の」「夕暮れの」「氷うかぶ」――そうした言葉を足してみると、「氷うかぶ 麦茶のグラス 夕暮れて」というふうに、するすると一句にまとまります。完璧でなくて構いません。ご自分が「いいな」と思えれば、それで百点満点です。
もうひとつ、肩の力をぬいて一句作るためのコツをまとめておきます。
- 上手に詠もうとしない。「呟き」でじゅうぶん
- 目に入ったもの、聞こえた音、感じた風から始める
- 一句に季語をひとつ。歳時記の一冊が頼りになる
- 感想を入れず、景色だけを置く――それで十分伝わる
- 手帳の隅でも、新聞の余白でも、思いついたら書き留める
もうひとつ、初心者の方にお伝えしたいことがあります。それは「俳句に正解はない」ということです。プロの俳人の方々も、お互いに句を披露し合いながら「これはいい」「私はこちらが好き」と意見を交わします。十七音の世界は、誰のものでもなく、詠んだご自身のものです。「下手だから」「素人だから」と気にする必要はまったくありません。胸の中にうかんだ景色を、ご自分の言葉でそのまま並べる――それで十分なのです。そして、月日を経てから自分の昔の句を読み返すと、当時の自分が感じていた小さな喜びがそのまま蘇ってくる――それも俳句の不思議で、贅沢な楽しみ方のひとつです。日記とはまた違った、時を超える対話のかたちといえます。
また、毎日の散歩や買い物のときに、メモ帳とえんぴつを小さなバッグに入れて持ち歩いてみるのもおすすめです。商店街で見た風鈴、駅前のあじさい、夕暮れに鳴く蝉――、その場でメモしておくと、家に帰ってからゆっくり一句にまとめる楽しみが生まれます。「あ、今日もたねが見つかった」――そう思える日が増えると、毎日のお散歩がいっそう待ち遠しくなってきます。
五七五の十七音には、不思議な力があります。短いからこそ、その日の景色や心の揺れが、くっきりと残るのです。一日の終わりに、今日の一句をひとつだけ書いてみる。そんな小さな習慣が、毎日の暮らしに彩りを添えてくれるかもしれません。