コーラスや合唱、声を合わせるよろこび
みんなで声を合わせる時間は、不思議と心まで揃ってきます。地域のサークルやお寺の歌の会など、参加の仕方をご紹介します。
公開日: 2026年11月13日
学校の音楽の時間や、若いころのコーラス部、町内会の催しなど――ご自分の声と誰かの声が合わさって、一つの音楽になる瞬間を、ご経験になったことはおありでしょうか。ピアノや楽器を一からはじめるのは敷居が高い気がしても、声を出すだけならば、私たちは生まれた時から続けてきた「使い慣れた楽器」を持っているのです。声を合わせて歌うあの感覚――胸のなかに音が響き、隣の人の声と自分の声がふっと一本につながる、あのよろこびは、ほかの趣味ではなかなか味わえないものです。きょうは、お年を重ねてからのコーラスや合唱の楽しみと、地域での参加のはじめ方のお話をいたします。「もう声が出なくなってきた」「楽譜は読めない」――そんなお気持ちも、いっこうに気にしないでください。歌は、上手下手を競うものでなく、声を合わせることそのものの喜びを味わうものなのです。むしろ、人生の年輪を重ねた声には、若い人にはない深い味わいがあると言われます。
声を合わせると、心も整ってまいります
ひとりで歌うのも気持ちのよいものですが、何人もの人と声を合わせると、まったく違う体験になります。お隣の方がアルトを担当し、その向こうの方がソプラノを響かせ、自分はメゾソプラノでそっとはさまる――そんなふうに役割を分けて歌う合唱の楽しさは、参加した方にしかわからない味わいがあります。和音がぴたりと合った瞬間の、あの胸の奥が震えるような感動は、音楽を聴くこととはまた違う、能動的なよろこびです。
また、歌うことは、体にとってもよいことがたくさんあります。ふだんの呼吸よりも深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す動きは、肺の働きをととのえ、自然な腹式呼吸の練習になります。声を出すために腹筋や背筋を使いますから、ささやかな体操にもなります。さらに、歌詞を覚える、メロディーを記憶する、指揮を見ながら他の人と合わせる――こうした働きが、脳の活性化にもつながるとされています。「歌は、心と体と頭の総合体操」と言ってもよいかもしれません。お年を重ねてから、運動はおっくうでも、歌だけは楽しみとして続けられる――そんな声を、実際に多くのシニアの方からお聞きいたします。
そしてなにより、コーラスの大きな魅力は、「ひとりではない」ということです。週に一度、決まった時間に決まった場所で、いつもの仲間と顔を合わせる――この日常のリズムが、ひとり暮らしや配偶者を見送った後の暮らしを、しずかに支えてくれることがあります。歌の話だけでなく、「先週はどうしてた?」「お孫さんの運動会、行ってきたわよ」――そんな何気ない言葉のやりとりが、人生のなかでとても大きな意味を持ってくるのです。練習の前後のお茶の時間も、楽しみのひとつ。歌を通して結ばれたご縁は、年月とともにいっそう深まっていきます。
はじめての一歩、こんなところから
「歌う場所」と聞くと、合唱コンクールに出るような大がかりなものを想像されるかもしれませんが、実際には、ご自分の身近なところに、たくさんの「歌の場」があります。ご無理のない範囲で、お一人で立ち寄れる場所から始めてみるのがおすすめです。
- お住まいの自治体や公民館のコーラスサークル
- シニア向けの合唱講座(月一回・三千円程度のものも)
- お寺の御詠歌の会、教会の聖歌隊
- デイサービスや地域の集まりでの「みんなで歌う時間」
- 市民合唱団――月二回程度、年に数回の発表会あり
- うたごえ喫茶――昭和歌謡や唱歌をみんなで歌う場所
もっとも気軽に始められるのが、お住まいの自治体が運営する公民館のコーラスサークルや、シニア向けの合唱講座です。市役所や区役所の広報誌、町内の掲示板にお知らせが載っていることが多く、月に三千円ほどの会費で参加できる場合もあります。新しい人を歓迎してくださるサークルがほとんどですから、思い切って一度、見学のお問い合わせをされてみるとよいでしょう。多くの場合、最初の一、二回は「お試し参加」を許してくださいます。
宗教の世界に親しみがおありなら、お寺の御詠歌の会や、教会の聖歌隊もあたたかな居場所になります。御詠歌は、お経のメロディーに合わせて歌う仏教の歌で、心がしずまるリズムが特徴です。聖歌隊は、賛美歌をきれいに合わせて歌う、こちらも荘厳な世界です。どちらも、信仰の有無にかかわらず、参加を許してくださる場が多くございます。
「うたごえ喫茶」というお店をご存じでしょうか。昭和の懐かしい歌謡曲や、童謡、唱歌をみんなで歌うお店で、いま全国に少しずつ復活しつつあります。お一人でふらりと立ち寄って、コーヒー一杯のあいだ、知っている歌を声に出してみる――そんな気軽な歌の時間も、たいへんおすすめです。
無理のない参加、無理のない練習
コーラスや合唱を続けるうえで、いちばん大切なのは「無理をしない」ということです。お年を重ねますと、若い頃のような高音は出しにくくなりますし、長時間立って歌うのも、体に負担がかかります。ご自分のペースで、ご自分の声の出る範囲で、楽しむのが何より大切です。
練習では、「ここは高音だから自信がないわ」と思ったら、無理に声を出さず、心のなかで歌うだけにする方法もあります。これは合唱の世界では「マークする」と呼ばれ、ベテランの方もよく使う技法です。声を出さなくても、ちゃんと音楽に参加しているのです。指揮の先生も、皆さんの様子をよく見てくださいますから、「むずかしいところはがんばらなくていいですよ」と、温かく見守ってくださることでしょう。
練習の頻度も、ご自分の体力に合わせて。週に一度のサークルなら無理なく続けやすいですが、「今週は体調がすぐれないから、お休みするわね」とお伝えして、お休みすることもためらわないでください。長く続けるためには、たまにお休みすることも大事なリズムの一部です。発表会やコンサートが近づくと練習が増えがちですが、そういう時こそ、ご自分の体と相談しながら、参加の仕方を選んでくださいね。
もしも、「みんなで合わせるのは少し緊張する」というお気持ちなら、お家でラジオの歌番組と一緒に歌うだけでもよいのです。NHKの「ラジオ深夜便」や「のど自慢」、また音楽家の方が解説してくださる番組も多くございます。一日のうち、十五分だけ、誰にも遠慮なく好きな歌を歌う――それも、立派な「声を合わせるよろこび」のひとつのかたちです。お風呂のなかで歌うのも気持ちがよいですし、ご家族と一緒に童謡を歌うひとときも、ささやかな宝物になっていきます。
覚えやすい歌からはじめるのもおすすめです。「ふるさと」「赤とんぼ」「もみじ」「夏は来ぬ」――子どもの頃に学校で歌った唱歌は、年を重ねてからも、不思議とそらで歌えるものです。歌詞のなかにある日本の四季の風景や、ふるさとへの思いが、自然と胸の奥にしみてまいります。「春の小川」を春に、「むしのこえ」を秋に、「冬の夜」を冬に――季節ごとに違う歌を歌うと、暮らしのリズムにそって、心も少しずつうつろってまいります。
歌の世界に、上手下手の境い目はありません。声に出すことそのもののよろこびを、ぜひ味わってみてくださいね。「もう何年も歌っていない」という方も、いざ歌い始めれば、体は意外と覚えているものです。最初は声がかすれても、続けるうちに、すこしずつ調子が戻ってまいります。きっと、明日からの一日が、いつもよりほんの少し、明るく響くようになることでしょう。