御朱印帳をひらく、お参りのたのしみ
神社やお寺をまわって、一冊ずつ集まっていく御朱印。記念にも、心の旅日記にもなる、御朱印帳の楽しみ方をお話しします。
公開日: 2026年10月4日
ご旅行先や近くの神社で、御朱印をいただいたことはありますか。ひと筆ひと筆、墨で書かれた力強い字、朱色の印が押される瞬間の重み、紙が一枚ずつ埋まっていくよろこび――御朱印帳は、お参りの記念であると同時に、心の旅日記のようなものでもあります。最近は若い方の間でも御朱印集めが人気で、神社やお寺の参拝に、また新しい意味合いが加わってきています。シニア世代の方も、ご旅行のたのしみとして、あるいは日々のお散歩の延長として、御朱印帳を一冊持ってみるのはいかがでしょうか。今日は、御朱印帳を始める方にもわかりやすく、その魅力と楽しみ方、そして大切な作法のお話を、ゆっくりご紹介してみたいと思います。一冊の帳面が、これからの暮らしに小さな彩りを添えてくれるかもしれません。
御朱印って、どんなもの?
御朱印は、もともと神社やお寺にお参りした証として、住職さまや神主さまから授けていただくものです。古くは、お寺に写経を奉納したお礼として朱印を押していただいたことが始まりとされ、時代を経て、いまの形に変わってきました。御朱印帳には、参拝した日付、神社・お寺の名前、ご本尊やご祭神のお名前などが、墨書きと朱印で記されます。一枚一枚が、書いてくださる方の手仕事ですから、同じものは二つとしてありません。
御朱印は「スタンプラリー」ではなく、あくまでお参りの証です。ですから、まずはきちんとお参りをしてから、御朱印をお願いするのが大切な作法です。鳥居や山門の前でひと礼し、手水で手と口を清め、ご本尊・ご祭神にお参りをしてから、社務所や授与所で御朱印をお願いする――この順番を守ることが、御朱印をいただくうえで最も大切な心がけです。集めることが目的ではなく、お参りを重ねる気持ちが先にあって、その記念として御朱印が残る――そんな姿勢でいただくと、御朱印帳の一枚一枚が、ぐっと深い意味を持つようになります。
御朱印帳をひらく前に、おさえておきたい小さな作法をまとめました。
- まずは本堂・本殿でお参りをしてから、御朱印をお願いする
- 「御朱印をお願いします」と丁寧にひと言、頭を下げて
- お納め(初穂料)は三百円から五百円が一般的、お釣りのないように
- 書いていただいているあいだは、静かに待つ
- 受け取るときは、両手で。「ありがとうございました」とお礼を
- 御朱印を集める目的ではなく、お参りの記録として大切に
一冊目の御朱印帳、選ぶたのしみ
御朱印帳には、たくさんの種類があります。布張りのもの、和紙のもの、各神社・お寺オリジナルのもの――サイズや色、表紙の絵柄も様々です。最初の一冊は、ご自分が「これは素敵」と思えるものを選ぶのが、いちばんのおすすめです。書店や雑貨店、神社仏閣の授与所などで購入できます。御朱印帳のサイズは、大判(縦十八センチ程度)と小判(縦十六センチ程度)が一般的。大きすぎず、お持ち歩きしやすいサイズを選ぶと、お出かけのたびに気軽に持っていけます。
また、有名な神社・お寺では、その地ならではの絵柄や紋章をあしらったオリジナルの御朱印帳が販売されています。京都の清水寺、東京の浅草寺、伊勢神宮など、訪れる先で気に入ったものに出会えたら、その場で記念に購入されるのもよい思い出になります。一冊目をその場所の御朱印帳にして、一ページ目に同じ場所の御朱印をいただく――そんな組み合わせも、心に残る素敵な始め方です。
御朱印帳は、神社用とお寺用を分ける方もいらっしゃれば、一冊にまとめる方もいらっしゃいます。本来はどちらでも構わないとされていますが、伝統を大切にしたい場合は分けるのが丁寧、という考え方もあります。最初は一冊から始めて、たくさん集まってきたら二冊目を分けてみる――そんな自然な流れで取り組まれるとよいと思います。大切なのは、ご自分の続けやすいやり方を見つけることです。
近くの神社・お寺から、ゆっくり始める
御朱印巡りというと、遠くの有名な神社・お寺をめぐる旅をイメージされるかもしれません。けれど、はじめての方には、ぜひお住まいの近くの神社・お寺から始めることをおすすめします。意外と知らないだけで、徒歩圏内やバスで行ける範囲に、御朱印を授けてくださる神社・お寺があるものです。「氏神さま」と呼ばれる、お住まいの地域を守る神社にお参りすることから始めれば、毎月のお散歩の延長として、無理なく続けられます。
近くから始めるよさは、無理がないことだけではありません。地元の神社・お寺をめぐることで、お住まいの地域の歴史や、街の成り立ちが見えてくるのです。「あら、この神社、こんな古い由来があったのね」「お隣の町には、こんなお寺があったのね」――そんな小さな発見が、毎月の楽しみになります。御朱印帳の一ページ目から、地元の神社の御朱印が並んでいくのは、ご自分の暮らしの足元を再発見する旅でもあります。
慣れてきたら、少しずつ範囲を広げて、隣町や他県への日帰り旅、温泉旅行のついでにお参り、というふうに楽しみを広げていけます。御朱印帳を一冊持っているだけで、旅の目的が一つ増えて、ご旅行がいっそう楽しくなります。ご夫婦やお仲間と「次はどこの神社に行こうか」「来年はあのお寺の御朱印をいただきに行こう」――そんな会話が、暮らしのなかに小さな楽しみを増やしてくれます。
御朱印帳との長いつきあい方
御朱印帳には、たくさんの神社・お寺を巡ったぶんだけ、一枚一枚の御朱印が積み重なっていきます。一冊埋まる頃には、お参りした思い出や、その日の天気、ご一緒した方々の顔が、ふっとよみがえってくるものです。「あら、これは桜の季節に行ったわね」「これは雨の日に伺ったお寺」――一ページ一ページが、ご自分の人生の小さな旅の記録になっていきます。
御朱印帳の保管は、湿気の少ない、直射日光の当たらない場所に、立てて置くのがおすすめです。墨や朱印のインクが、長い時間のうちに色あせたり、にじんだりしないようにするためです。神棚や仏壇にお供えする方もいらっしゃいますし、本棚の専用の場所に並べる方もいらっしゃいます。お孫さんやお子さんに「私の御朱印帳よ」と見せてあげるときの嬉しさも、また格別なものです。
そして、人生の終わりが近づいたとき、御朱印帳をどうするか――これも、御朱印帳との長いつきあいのなかで、考えておくとよいことかもしれません。多くの神社・お寺では、終わった御朱印帳をご家族の形見として大切にされる方も多くいらっしゃいますし、お寺によっては「お焚き上げ」と呼ばれる供養をしてくださるところもあります。ご自分の旅の記録として家族に残すか、感謝の気持ちを込めて供養するか――どちらの選び方も、それぞれに意味のある向き合い方です。一冊の御朱印帳が、ご自分の心の旅と長く寄り添ってくれる――そんな贅沢な趣味として、これから始めてみてはいかがでしょうか。お住まいの近くの神社で、一冊目の最初のページから。ゆっくり、ご自分のペースで、神社・お寺との対話の旅を、楽しんでいただけたらと思います。御朱印帳を一冊持つということは、神社やお寺との対話を通じて、ご自分のなかにある大切なものを、しずかに見つめ直していく時間を持つことでもあります。慌ただしい日々のなかで、手のひらにのる帳面ひとつが、ご自分にとっての心の拠りどころになっていく――そんな緩やかな育ち方をする趣味は、これからの人生のなかで、きっと豊かな彩りを添えてくれるはずです。