御朱印帳を片手に、お寺と神社をめぐる
一冊の帳面が、旅の記憶を静かに残してくれます。御朱印の作法と、無理のないめぐり方のはじめ方をご紹介します。
公開日: 2026年6月11日
数年前から、若い方を中心に「御朱印めぐり」が人気になっています。けれど、御朱印そのものは、ずいぶん古くからお寺や神社に伝わってきた、由緒ある習わしです。神社やお寺を参拝した証として、社務所や納経所で帳面に印と筆字をいただく――それが御朱印です。一冊の帳面が、自分が訪ねた場所の記憶を、しずかに残してくれます。年を重ねた私たちにこそ似合う、ゆったりとした旅のかたちを、今日はゆっくりとお話ししてみたいと思います。
御朱印帳、まずは一冊を選ぶところから
御朱印めぐりを始めるには、まず御朱印帳が必要です。御朱印帳とは、御朱印をいただくための専用の帳面で、ジャバラに折りたたまれた紙が、表紙と裏表紙のあいだに納められたものです。文具店や神社の社務所、お寺の納経所などで手に入りますし、最近ではインターネット通販でも手軽に購入できます。
表紙のデザインは、本当にさまざま。和紙の素朴なもの、季節の花が描かれたもの、お寺や神社のオリジナルの図柄が入ったもの、シックな西陣織のもの――。「これだ」と思う一冊を選ぶ時間も、御朱印めぐりの楽しみのひとつです。最初の一冊は、お気に入りの一冊を選んでみてください。
御朱印帳のサイズは、おおむね二種類あります。大きさによって違いがあるので、選ぶ前にちょっと知っておくと安心です。
- 大判サイズ:約十八センチ×十二センチ、神社向きと言われる
- 小判サイズ:約十六センチ×十一センチ、お寺向きと言われる
- 神社とお寺で、別の一冊を用意する方も多い
- ジャバラ式が一般的、両面に書いていただける
- 表紙にお名前を書く欄がある場合は、忘れずに記入を
「神社とお寺で別の御朱印帳を用意する」というのは、必ずしも厳格な決まりではありませんが、礼儀として分ける方が多い、と言われています。混ぜても問題ない、と言うお寺さんもいらっしゃいますので、迷ったら、いただく場所で尋ねてみるのがいちばんです。
御朱印をいただく、その作法と心がけ
御朱印は、ただ集めるためのスタンプではありません。本来は、お参りをした証(あかし)としていただくものです。ですから、まずはきちんとお参りをしてから、社務所や納経所に向かう――その順序を大切にしてください。
お参りの作法は、神社では「二礼二拍手一礼」、お寺では合掌(両手を合わせて静かに頭を下げる)が基本です。お賽銭を入れ、しずかに心をこめてお参りをしてから、社務所に向かいます。社務所では「御朱印をお願いいたします」とひとこと声をかけ、帳面を開いた状態で渡します。
御朱印代は、おおむね三百円から五百円が相場です。お釣りのないように、小銭をご用意しておくと、お互いに気持ちよくやりとりができます。書いていただいているあいだは、静かに待ち、おしゃべりや写真撮影は控えるのが礼儀とされています。
御朱印をいただく時の小さな心がけを、いくつかまとめます。
- まずきちんとお参りを済ませてから
- 「御朱印をお願いいたします」と一言
- 御朱印帳は、書いていただくページを開いて渡す
- 御朱印代は、お釣りのないように
- 書いていただいているあいだは、静かに待つ
- 受け取ったあとは「ありがとうございました」を忘れずに
- 御朱印は墨や朱が乾いてから閉じる、または当て紙を
急かしたり、写真をすぐにSNSにアップしたりすると、お寺や神社のご迷惑になることもあります。御朱印は「いただきもの」――そんな気持ちで、お一冊にていねいに増やしていきたいですね。
無理のないめぐり方、まずは近所のひと社・ひと寺から
御朱印めぐりを始めると、つい遠出をして、たくさんの場所を回りたくなります。けれど、年を重ねた私たちには、急がず、無理をせず、心地よいペースで進めることが、いちばん大切です。まずは、お住まいの近所のひと社、ひと寺から始めてみてください。
ご自宅から徒歩や電車で行ける、いつも前を通っているけれど中に入ったことはない神社、お寺。「いつかゆっくり訪ねてみたい」と思っていた場所が、きっといくつかあるはずです。御朱印という具体的な目的があると、ふらりと出かけるきっかけになります。
近所のひと回りに慣れてきたら、少しずつ遠出にも挑戦してみる。電車で一時間以内のお寺や神社、ひと駅向こうの古い社――そんなふうに、円を広げていくと、ご自分の街の知らなかった魅力に出会えます。一日に何ヶ所もまわろうとせず、一日に一ヶ所か二ヶ所、ゆっくりお参りをしてお茶を飲んで帰る――そんなペースが、年を重ねた私たちの御朱印めぐりにはふさわしいのです。
御朱印めぐりの楽しみ方には、いろいろなかたちがあります。
- 近所のひと社・ひと寺から、ふらりと
- 古都を訪ねる旅、京都・奈良・鎌倉
- 七福神めぐり、お正月の松の内に
- 四国遍路、一県だけの「区切り打ち」も
- 季節限定の御朱印を、目当てに出かける
- ご家族やお友達と、一緒の一日旅に
御朱印帳が一冊書き終わるまでには、人によって何年もかかります。それでよいのです。むしろ、何年もかけて少しずつ埋まっていく一冊だからこそ、ご自身の歴史を映す宝物のような帳面になっていきます。
御朱印めぐりは、ご朱印そのものよりも、お寺や神社にお参りに行くという、その行為そのものに豊かな意味があります。鳥居をくぐり、手水で身を清め、参道をしずかに歩き、お賽銭を入れて手を合わせる――その一連の流れのなかで、不思議と心が整っていきます。「お参りをしたい」と思った日に、すっと出かけられる場所が、ご自身の街にいくつもある。その安心が、御朱印めぐりの何よりの財産です。一冊の御朱印帳を片手に、無理のないお参りの旅を、これから少しずつ始めてみませんか。ふと立ち寄った神社の境内で、季節の花や、古い木の幹、苔の生した手水鉢――そんなささやかな景色に出会えただけで、その日いちにちは豊かなものになります。お孫さんやお友達と一緒に出かけて、それぞれの一冊に印をいただくのも、新しい楽しみのひとつ。御朱印帳のなかに、これからのあなたの旅の記憶が、しずかに増えていきますように。