フレイルって、どんな状態?
最近よく耳にする「フレイル」という言葉。年齢のせいと片づけがちな変化に、早めに気づくためのやさしい目安をお伝えします。
公開日: 2026年9月1日
「最近、ちょっと疲れやすくなった」「歩くのが少し遅くなった気がする」「ごはんの量が、前ほど食べられない」――そんな小さな変化を感じていらっしゃる方は、決して少なくないと思います。年齢を重ねれば、体が少しずつ変わっていくのは自然なことですが、最近よくテレビや雑誌で耳にする「フレイル」という言葉をご存知でしょうか。聞き慣れないカタカナ語ですが、シニア世代の方にとってはとても大切な考え方なので、今日はフレイルとはどんな状態のことか、ゆっくりとお話ししてみたいと思います。
フレイルは「健康」と「要介護」のあいだ
フレイルとは、英語の「フレイルティ(Frailty)」を短くした言葉で、「虚弱」を意味します。健康な状態と、介護が必要な状態のちょうど中間にある、心身が少し弱ってきた段階のことを指しています。「もう年だから」と片づけてしまいがちな変化が、実はフレイルのサインだったということが、よくあるそうです。
フレイルが大切な考え方とされるのは、ここから「健康な状態に戻れる可能性が高い」という性質があるからです。一度介護が必要なほどに弱ってしまうと、元に戻すのは大変ですが、フレイルの段階で気づいて、食事や運動を整えれば、また元気な暮らしに戻っていけることが多いのです。「早めに気づいて、ゆっくり整える」――それがフレイルとの上手なつきあい方の基本になります。
フレイルに気づくための、よく知られているサインをまとめました。
- 体重が半年で二〜三キログラム以上、自然に減った
- ペットボトルのふたが開けにくくなった
- 歩く速さがゆっくりになった、信号が変わる前に渡れない時がある
- 最近、何をするにも億劫に感じることが増えた
- 外出する回数が減った、一日中誰とも話さない日がある
食べる、動く、つながる――三つの柱
フレイルに上手につきあうための柱は、おおまかに三つあると言われています。「食べる」「動く」「つながる」――この三つです。どれかひとつではなく、三つそろえて少しずつ整えていくことが大切とされています。お一人ですべてを完璧にこなす必要はありません。「今日はいつもより、お肉を一切れ多く食べてみよう」「今日は近所のお店まで歩いてみよう」「久しぶりにあの友人に電話してみよう」――そんなちいさな積み重ねで十分です。
「食べる」という柱については、特にたんぱく質がよく話題になります。お肉、お魚、たまご、豆腐、納豆など、たんぱく質を含む食材を、毎食ひと品ずつ取り入れるのが目安とされています。シニアの方は若い頃よりも、たんぱく質をうまく取り込みにくくなる傾向があるそうなので、意識して「お皿に一品」を心がけると、筋肉の維持につながります。お口の健康も、食べることに大きく関係します。歯医者さんに定期的に通って、噛む力を保っておくことが、フレイル予防の土台になります。
動くは、運動会のような大ごとでなくていい
「動く」と聞くと、ジムやウォーキングを思い浮かべて、身がまえてしまう方もいらっしゃるかもしれません。けれど、フレイル予防の「動く」は、特別な運動を始めなくても大丈夫です。お庭の草むしり、台所での立ち仕事、孫の手を引いてのお散歩、お買い物に歩いて行く――こうした日々の暮らしの動作も、立派な運動になっています。大切なのは「座りっぱなしを減らす」こと。テレビを見ている間に、一時間に一度は立ち上がって、ちょっと体を伸ばす――それだけでも、ずいぶん違います。
もうひとつおすすめなのが、台所のフチに手を添えて片足で立つ「片足立ち」。一日一分でも続けると、足腰の感覚がぐっと変わってきます。テレビのコマーシャルの間、お湯が沸くのを待つ時間、歯磨きをしている間――そんなすき間時間にひっそりと取り入れられる運動です。お住まいの地域の公民館やコミュニティセンターでは、シニア向けの体操教室が開かれていることが多いので、ご近所さんと一緒に参加するのも、楽しみの一つになります。「動く」が誰かと一緒の時間になれば、続けるのも楽になります。
つながりが、心と体の両方を支える
意外に思われるかもしれませんが、フレイル予防でとても大切な柱が「つながる」――人との交流です。「ちょっと話す相手がいる」「週に一度は人と顔を合わせる」――そうした人とのふれあいが、心の元気を保ち、それが体の元気にもつながっていきます。一人で過ごす時間が好きな方もいらっしゃるでしょうし、それを否定するつもりはありません。けれど、「一週間、誰とも話さなかった」という日が続くようでしたら、ちょっと注意のサインかもしれません。
ご近所さんとの立ち話、ご家族との電話、お孫さんとのLINE――どんな形でもかまいません。最近では、シニア向けの趣味の会や、コーラスサークル、囲碁・将棋の会など、地域には集まれる場所がたくさんあります。お住まいの地域包括支援センターに問い合わせれば、近くの活動を教えてくださいます。「行ってみよう」と一歩踏み出すには勇気がいりますが、最初の一回を超えると、思いがけない人とのご縁が生まれることがよくあります。フレイル予防は、決して大ごとではなく、毎日の暮らしのなかにそっと組み込んでいけるものです。ご無理なく、ご自分のペースで、三つの柱を意識した暮らしを始めてみてはいかがでしょうか。
もし「最近、フレイルかな?」と感じる変化が気になる場合は、お住まいの地域包括支援センターや、かかりつけのお医者さんにご相談されるのが安心です。フレイル簡易チェック表のようなものを用意しているところもあり、客観的に自分の状態を眺めるきっかけになります。フレイルは、気づいて整えていけば、元気な暮らしに戻れる段階です。「もう年だから仕方がない」とあきらめずに、「これからもうひと頑張りしてみよう」――そんな前向きな気持ちで、今日からの一歩を踏み出してみてください。
ご家族と一緒に、フレイルを話題にしてみる
フレイル対策は、ご自分一人だけのお話ではありません。離れて暮らすご家族にも、ぜひ知っておいていただきたい考え方です。お子さん家族やお孫さんが「最近どう?」と聞いてくださった時に、「フレイル予防で、ちょっと意識してることがあるのよ」と話してみるのもよいきっかけになります。ご家族が知っていれば、お盆やお正月で集まった時に、「お母さん、最近ちょっとやせたかも」「お父さん、声に張りがない気がする」と早めに気づいてもらえます。
また、ご家族のなかでも、ご自分が一番元気な方なら、ご夫婦のもう一方や、お友達のことを気にかけてあげる立場にもなります。「最近、出かけてる?」「今日のお昼、何食べた?」――そんな何気ない会話のなかから、相手のフレイルのサインに気づけることもあります。お互いに気にかけ合うことが、誰もが元気で暮らしていける地域づくりの一歩でもあります。フレイルという言葉自体は新しくても、その本質は「お互いに健康でいられるように見守り合う」というシンプルな心がけ。むずかしく考えず、できることから一つずつ取り入れていただけたら、それだけで十分なフレイル予防になっています。
「年齢を重ねたからこそ、できることがある」――そう前向きに考えてみると、フレイル予防は、後ろ向きな対策ではなく、これからの暮らしを豊かにする積極的な工夫だと感じられるはずです。毎日の食卓に小さなたんぱく質を一品、毎日のお散歩や家事で体を動かし、週に一度は人と会って話す――この三つを意識した暮らしが、ご自分らしい元気な毎日を支えてくれます。今日から、ぜひ取り入れられるところから始めてみてください。