エンディングノート、書ける欄から少しずつ
むずかしく考えず、書ける欄から始めてみませんか。残された家族にも、自分にもやさしいノートのまとめ方です。
公開日: 2026年6月25日
本屋さんの店頭で「エンディングノート」と書かれた一冊を手に取ったことのある方は、増えてきました。けれど、いざ買って帰ってみると、ページのなかには「葬儀のかたち」「相続の希望」「医療の意思表示」と、ずしりと重い項目が並んでいて、すぐにはペンが進まない――そんなご経験はありませんか。エンディングノートは、最初から完璧に書こうとしなくてだいじょうぶ。今日は、書ける欄から少しずつ、無理なく育てていくお話をいたします。
「終わり」のためではなく、「いま」のために
エンディングノートと聞くと、どうしても「亡くなった後のため」と思いがちですが、実はその大半は「いま、自分が困らないため」「いざという時、家族が困らないため」のメモなのです。連絡先の一覧、加入している保険、銀行口座のある場所――こうした情報は、急な入院や、ちょっとした体調不良のときにも、すぐに役立ちます。
ですから、最初に手をつけたいのは、お別れの希望や葬儀のことではありません。むしろ、もっと現実的で、書きやすい欄から始めてみてください。「自分の基本情報(生年月日、本籍、健康保険証の番号)」「いざという時に連絡してほしい人の名前と電話番号」「かかりつけの病院と先生のお名前」――。こういった欄は、目の前のメモを写すだけで埋まります。十五分もあれば、最初のページがにぎわってくるはずです。
書きやすい欄、始めやすい欄を、いくつか挙げておきます。
- 氏名、生年月日、本籍、住民票の住所
- 緊急時の連絡先(家族、親戚、親しい友人)
- かかりつけの病院、薬局、診察券の場所
- 加入している保険(健康、医療、生命)
- 預貯金のある銀行・支店名(暗証番号は別管理)
- 携帯電話・スマホの会社、契約者名義
書く順番に決まりはありません。気が向いた欄からひとつずつ、一日にひと欄でも、十分です。
ノートは「育てる」もの、完成を目指さない
エンディングノートは、一度書いたら終わり、というものではありません。住所が変わったり、加入する保険が変わったり、お薬が増えたり――暮らしの変化に合わせて、書きかえていく「育てるノート」と思っていただくのがよいでしょう。
たとえば、年に一度、ご自分のお誕生日や結婚記念日、お正月など、決まった日を「ノートの見直し日」と決めておくのも一案です。その日にノートを開いて、変わったところを書きなおし、増えた項目を埋めていく。十分か二十分の作業ですが、これを続けると、暮らしのなかでうっかり忘れていたことに気づける機会にもなります。
そして、ノートは家族にも在りかを伝えておきましょう。せっかく書いたノートも、いざという時に家族が見つけられなければ、本来の役割を果たせません。「もしもの時は、机のいちばん下の引き出しの茶色いノートを見てね」――そんな一言を、お子さんやご親族に伝えておく。それだけで、ノートはちゃんとした「お守り」になります。
少しずつ向き合う、心の重い欄
ある程度、書きやすい欄が埋まってきたら、少しずつ、心の重い欄にも目を通してみてください。「もしも自分で意思を伝えられなくなったら、どんな医療を望むか(または、望まないか)」「お葬式は家族葬がいいか、お別れ会だけでよいか」「お墓はどこに入りたいか、それとも樹木葬・散骨を希望するか」――こうした問いに、いますぐ答えを出さなくてもかまいません。
むしろ、答えに迷う欄こそ、家族と話すきっかけになります。「お母さんはこのへんはどう思ってるの?」と娘さんから聞かれたとき、「そういえば、まだ決めてないのよ」「ノートには『家族葬が望ましい』って書いたけど、どうかしらね」とお話ししてみる――エンディングノートは、家族との対話の入口にもなるのです。
また、こうした重い欄は、書き残すことそのものが「自分のため」にもなります。元気なうちに、自分の希望を言葉にしておくことで、いざという時の不安が少しやわらぐ――そんな声を、エンディングノートを書き終えた方からよくお聞きします。ノートは、家族へのお手紙であると同時に、ご自分への「安心の手帳」でもあるのです。
- 書きやすい欄から、一日ひと欄でじゅうぶん
- 答えに迷う欄は、家族と話すきっかけに
- 年に一度の「見直し日」を決める
- ノートの場所は、家族にひとこと伝えておく
- 暗証番号・パスワードは、別の場所に管理する
エンディングノートは、書店で買える市販のものから、自治体の窓口で配布されているもの、お寺や葬儀社が独自に作っているものまで、さまざまな種類があります。ご自分にしっくりくる一冊を選ぶところから始めてみてください。表紙の絵柄、ページの構成、書きこむ欄の細かさ――手に取ってみないと分からない違いがあります。
「終活」という言葉を耳にすると、なんだか急かされるような気持ちになるかもしれません。けれど、エンディングノートは、ご自分のペースで、書ける欄から、ゆっくり育てていけばよいものです。一年かけて、半分ほど埋まればじゅうぶん。完璧を目指さず、けれど少しずつ前に進む――そんな付き合い方が、長く心地よく続きます。今日、お茶を入れて、ノートのいちばん最初のページだけ開いてみる。それが、いちばんの第一歩です。