土用の丑の日、うなぎを食べる前に
夏の土用の丑の日にうなぎを食べる風習は、江戸時代に始まったとされます。なぜこの日なのか、ほかにどんな夏の養生があるか、一緒にひもといてみませんか。
公開日: 2026年7月14日
七月の終わりが近づくと、お店の店先に「土用の丑の日」の文字が並びはじめます。うなぎ屋さんから漂うあの香ばしい匂いに、つい足が止まってしまう方もいらっしゃるでしょう。けれども、なぜこの日にうなぎを食べるようになったのか、ご存知ですか。今日は、夏の土用の丑の日のいわれと、うなぎだけにとどまらない、昔ながらの夏の養生のお話をひもといてみたいと思います。
「土用」と「丑の日」、ふたつの言葉のなかみ
土用というのは、もともと立春、立夏、立秋、立冬の前およそ十八日間をさす言葉です。つまり一年に四度、季節の変わり目があるわけですね。なかでも夏の土用は、暦のうえで立秋の前の十八日間にあたります。一年でいちばん暑さが厳しくなる時期と重なるため、古くから「夏ばて」や「養生」の言葉とともに、特別な期間として意識されてきました。
では「丑の日」とは何でしょうか。これは十二支を順番に日付に当てはめていく数え方で、十二日にいちど「丑」の日が巡ってきます。夏の土用のあいだに巡ってくる「丑の日」――それが「土用の丑の日」です。年によっては土用の期間中に二回めぐることもあり、それぞれを「一の丑」「二の丑」と呼んでいます。
うなぎが定着したのは江戸時代から
夏のこの時期にうなぎを食べる風習が広まったのは、江戸時代のことだといわれています。よく語られるお話によると、夏場に売り上げが落ちて困っていたうなぎ屋さんが、当時の博学者である平賀源内に相談したところ、「本日、土用丑の日」と書いた紙を店先に貼るように勧められた、というもの。これがきっかけで、土用の丑の日にうなぎを食べる習慣が、江戸の町に広がっていったとされています。
実は、もともと夏負けの予防に「う」のつく食べ物を食べるとよいといういわれが、古くからあったようです。うなぎのほかにも、うめぼし、うどん、うり――こうした「う」のつく食材は、夏の養生の知恵として、長く暮らしのなかに息づいてきました。うなぎはたんぱく質やビタミンが豊富で、夏場の体力を支えるごちそうとして、まさにぴったりの食べ物だったのですね。
土用の丑の日に意識して取り入れたい、昔からの「う」のつく食べ物をまとめました。
- うなぎ――たんぱく質とビタミンの宝庫
- うめぼし――食欲の戻らないときに、ひとつぶ
- うどん――冷たくしてさっぱり、温かくしてしっとり
- うり――きゅうりやすいかなど、水分補給に
- うずらの卵――小さくて食べやすい、滋養の一品
また、土用の期間には「土をいじってはいけない」という言い伝えもあります。これは、土用のころに種まきや畑仕事をすると、季節の変わり目に体調を崩しやすくなる、という昔の人びとの経験から生まれた知恵です。最近では真偽はともかく、「忙しい時期だからこそ、少しゆっくり休む期間」と捉え直して、家庭菜園を一週間お休みする、模様替えのような大仕事を避ける、と決めている方も多いようです。からだも、心も、ペースをゆるめてよい時期――それが土用、と考えると、より自然な過ごし方が見えてきます。
うなぎだけにこだわらない、夏の養生
近年は、うなぎの値段が高くなり、年に一度のごちそうとして特別感のあるものになっています。けれども、本来の土用の丑の日は、うなぎでなければいけない日ではありません。大切なのは、夏ばての季節に体をいたわり、栄養のあるものをいただく――その心がけのほうです。お肉が苦手な方には、しらすご飯やお豆腐の冷ややっこも、立派な夏の養生ご飯になります。
ご家族で「今年の土用は何にしようか」と相談しながら、お夕食のしたくをするひとときもまた、夏のささやかな楽しみです。スーパーのうなぎの売り場をのぞいて、お値段と相談しながら一切れだけ買って、卵焼きやお漬物と一緒に並べる――そんなご自宅の食卓も、立派な「土用の丑」になります。
また、夏の土用には「丑湯」と呼ばれる風習もあります。土用の丑の日に、お風呂のなかに桃の葉やどくだみ、よもぎなどを入れて入浴すると、夏ばて予防になるといわれてきました。最近ではゆず湯のような市販の入浴剤を使う方も多いですが、桃の葉や、ご自宅のお庭で育つよもぎがあれば、それをひとつかみお湯にうかべてみると、香りが立ちのぼり、心身がしんとほぐれる時間になります。食べるだけが土用の養生ではない――というのも、昔の方の知恵の深さです。
今年の土用の丑の日は、いつでしょうか。カレンダーを開いて、ご自身の暮らしのなかに、夏のごちそうの一日をそっと書き込んでみてください。一年でいちばん暑さが厳しい時期を、しっかりと食べて、しっかりと休んで、乗り切っていきたいものです。江戸の人びとから受け継いだ、夏のささやかな知恵を、これからも大切に味わっていきたいですね。お孫さんに「うなぎってどうして夏に食べるの?」と聞かれたら、平賀源内さんの故事を話してあげるのも、楽しい食卓のひとときになりそうです。