停電にそなえる、引き出し一段のあかり
突然の停電にあわてないために、引き出し一段を「あかりの引き出し」にしておきませんか。家族にも伝えやすい備えの仕方です。
公開日: 2026年10月30日
夜、テレビを見ていたら、突然プチンと音がして家じゅうが真っ暗になる――そんな経験を、一度や二度はされた方も多いのではないでしょうか。台風の夜、雷の夕暮れ、ときには電線の事故で、停電は思いがけずやってきます。お年を重ねてからの停電は、若いころとはちがう重みがあります。足元が見えずに転びそうになる、冷蔵庫の中身が心配になる、お薬の場所がわからなくなる――そんな小さな不安が次々に湧いてくるのです。きょうは、その不安をすっと和らげてくれる「引き出し一段のあかり」のお話をいたします。むずかしい防災用品を一気に揃える必要はありません。家のどこかの引き出しをひとつだけ、「あかりの引き出し」と決めるところから、はじめてみませんか。
どうして「引き出し一段」がよいのでしょう
防災の本を読みますと、「懐中電灯はベッドの横に置きましょう」「家のあちこちにランタンを」と書かれていることが多いものです。それも大切な備えですが、実は、家のなかにあかりがあちこちに散らばっていると、いざという時に「どこにあったかしら」と慌てる原因になることもあるのです。
そこでおすすめしたいのが、「あかりに関するものは、すべてここに集めておきましょう」という、ひとつの引き出しを決めておく方法です。台所の引き出しでも、玄関の靴箱の上の引き出しでも、寝室のサイドテーブルの引き出しでもかまいません。家族みんなが「停電になったら、まずあの引き出しを開ければいい」と覚えやすい場所を選ぶ――それだけで、いざという時の動きが、ぐっと落ち着いたものになります。
とくに、お一人暮らしの方や、ご夫婦だけのお住まいでは、誰かに教えてもらう余裕がない状況も考えておきたいものです。手探りで歩いていてつまずいては大変ですから、「目を閉じても、その引き出しまで辿りつけるか」を、一度試してみるとよいでしょう。実際にやってみると、案外、家具にぶつかったり、方向を見失ったりするものです。
引き出しのなかに、こんなものをそろえて
「あかりの引き出し」には、停電のときに必要なものを、ひとまとめにしておきます。あれもこれもと欲ばらず、本当に大切なものだけを、すっきりと並べておくのがコツです。引き出しを開けたときに、ぱっと目に入る配置にしておきましょう。
- 懐中電灯 ――手のひらにすっと収まる小型のものを一本
- ランタン――お部屋全体をやわらかく照らせるもの
- 予備の電池――懐中電灯とランタン両方の分を、新品で
- ろうそくと耐熱皿――電池が切れた時のための予備として
- ライターかチャッカマン――ろうそくに火をつけるため
- ホイッスル――いざという時、ご家族や近所に合図を送るため
懐中電灯は、いまは LED 式のものが主流で、明るく、しかも電池が長持ちします。値段も千円前後で買えるものが多く、二本買っておいて、一本を引き出しに、もう一本をお手洗いの近くに置いておかれるとさらに安心です。ランタンは、テーブルの上に置いてお部屋全体を照らせるタイプが便利。電池式のものもあれば、ソーラーで充電するもの、手回しで充電できるものもあります。お好みのものを一台選んでみてください。
電池は、必ず新品を、しかも「使う日付」を書いた付箋を貼って入れておきましょう。古い電池は液漏れすることがあり、一緒に置いてある懐中電灯まで壊してしまうことがあります。半年から一年に一度、電池を入れ替える日を決めておくと、いざという時に「あら、つかない」と慌てずに済みます。お正月の初仕事の日、衣替えの日、お盆の前――何でもよいので、ご自分のなかでひとつ「電池の日」を決めておかれるのが続くコツです。
ご家族と「ここを開ければいい」を共有する
せっかく引き出しを整えても、ご家族にその場所が伝わっていなくては、いざという時に役に立ちません。ご夫婦やお子さん、お孫さんが遊びにいらした時に、「停電になったら、台所のこの引き出しを開けてね」とひと言伝えておきましょう。
もしご家族が離れて暮らしていて、なかなか伝える機会がない場合は、引き出しの外側に小さな目印をつけておく方法もあります。たとえば、ピンク色のシールを一枚貼って「ここに防災のあかり」と書いておく――それだけで、はじめてお家に来た人でも、すっと見つけることができます。お孫さんがお泊まりにいらした時、お友達が訪ねていらした時、不意の停電にもすっと対応できる――そんな小さな目印が、家族や友人への思いやりにもなるのです。
ご一人暮らしの方は、お元気なうちに「もしもの時はこの引き出し」と書いた紙を、お子さんやご親戚にも一度共有しておかれるとよいでしょう。お電話で「実はね、台所の上から二番目の引き出しに、防災用品をまとめてあるのよ」とお伝えするだけ。何かあった時に、ご家族がお家を訪ねた際、すぐに状況を整えられます。
あかり以外の「ついで備え」もすこし
引き出しに少し余裕があれば、あかり以外にも、停電時にすぐ手にしたいものをいくつか足しておくとさらに安心です。ただ、あれもこれもと詰め込みすぎず、ほんの数点だけ。引き出しが開けにくくなるほどは入れないのが、長く続けるコツです。
お薬を毎日お飲みの方は、お薬手帳のコピーを一枚、ジッパー付きの袋に入れて。眼鏡を二本目お持ちの方は、その予備の眼鏡を。お一人暮らしで耳が遠い方は、ご近所さんやご家族の電話番号を大きな字で書いた紙を一枚。寒い季節なら、使い捨てのカイロを二、三個。これだけで、停電の最初の数時間を、ぐっと心安く過ごせるようになります。
また、スマホをお使いの方は、モバイルバッテリー(充電器)を一台、引き出しに入れておかれるのもおすすめです。停電が長引くと、スマホの電池も心配になります。連絡や情報収集の命綱ですから、フル充電にした予備バッテリーがひとつあると、ずいぶん心強いものです。半年に一度、ふだんから充電し直しておくのもお忘れなく。
停電というのは、いつ来るか誰にもわかりません。けれど、家のなかに「ここを開ければなんとかなる」という場所がひとつあるだけで、不安はぐっと小さくなります。完璧な防災袋を用意するのは大変ですが、引き出し一段だけなら、今日からでもできる――それが、お年を重ねた身にやさしい備えのかたちだと思います。今日の夕飯のあと、お茶を飲みながら、お家のどの引き出しを「あかりの引き出し」にしようかしら、と考えてみてはいかがでしょうか。きっと、その引き出しが、これからの暮らしの安心を、しずかに支えてくれることでしょう。お一人で備えるのが心細い方は、ご家族と一緒に並んで、引き出しのなかをのぞきこむ時間を作ってみてください。「これはお父さんが買ってきたランタン」「これはお母さんが用意した電池」――そんな会話自体が、家族のかすかな絆になっていきます。備えというのは、もしもの時のためでありながら、ふだんの日々を温かくしてくれるものでもあるのです。今夜、家のどこかの引き出しを一つ、ゆっくり片づけて、その場所を「あかりの引き出し」と心のなかで名づけてみる――それが、すべてのはじまりです。お住まいの自治体が配っている防災のしおりを、その引き出しに一枚しのばせておくのも、たいへんおすすめです。避難場所までの地図、自治体の連絡先、災害時のラジオ周波数――そういった情報が、いざという時に、ぱっと手に取れる場所にあるという安心感は、何ものにも代えがたいものなのです。